大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和58年(行コ)7号 判決

控訴人(原告) 松井雅彦 外六名

被控訴人(被告) 広島県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当時者双方の求めた裁判

控訴人は「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人が昭和四四年六月上旬ごろした広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業の換地計画及び同年七月上旬ごろした換地処分全体並びに同年八月一九日した換地処分全体の公告の各無効確認を求める訴を広島地方裁判所に差し戻す。(三)被控訴人が承継前の控訴人上野明常太郎及びその余の控訴人ら(以下「控訴人ら」という。)に対してした昭和四四年七月七日付原判決添附別紙換地処分通知(一覧表)記載の各換地処分、同年八月一九日付同別紙換地処分変更通知(一覧表)記載の換地変更処分が各無効であることを確認する。(四)前項の各訴に関する訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実に関する主張は、当審において次のとおり陳述したほか、原判決事実適示のとおりであるから、これをここに引用する。

三  控訴人らの主張

1  測量増地の処理について

(一)  測量増地は、何ら公共用地に当てられたものがなく、その大部分が後記の一坪・二坪換地の源資に当てられている。

(二)  測量増地は、街区内の各土地の公簿面積に接分して各従前地所有者に還元すべきところ、被控訴人はこれを行わなかつた。被控訴人は公共施設の原形測量を実施しており、道路によつて周囲を画された各街区の実測面積を算出できたから、これとその街区内の公簿面積とを比較してその測量増を街区内の各筆の公簿面積に按分することも容易にできた筈であり、現在の土地区画整理に関する建設省の行政指導もそのような方法によつているから、測量増地は右方法で還元すべきものであつた。

(三)  右(二)の方法によらないとしても、本来、その街内の従前地所有者に測量増地を還元した場合従前地の評価が面積増加に伴い高くなり、清算金算定上その土地全体の地価上昇分相当の金員がさらに従前地所有者に支払われるべきであつたが、被控訴人はその支払を全くせず、その利益を唯取りした。

2  いわゆる一坪・二坪換地について

(一)  本件土地区画整理事業は、昭和二二年ころから行われていた広島市土地区画整理事業の一貫として、昭和二七年三月その換地計画変更の形式で行われたが、計画変更に伴う従前の土地区画整理事業の仮換地未指定地約一一万坪(約三六万三六三六平方メートル)の処分方法の一つとして、そのうち二万四〇一三坪(七万九三八一平方メートル)がいわゆる一坪・二坪換地処分に当てられた。しかし、

(1) 右換地計画の変更は昭和二四年六月の政府閣議決定に基づくもので、その通達が出されてから、右計画変更まで何故に二年九か月を要したか疑問で、もつと短期間に処理することによつて、仮換地上に地上建物が建てられその除去移転を要することのないようにすべきであつた。

(2) 昭和二五年九月末日現在で仮換地の使用開始は、全面積一六二万六〇〇〇坪のうち一万二五〇〇坪にすぎなかつた。また、当時の建物の建築状況は、広島市の繁華街の本通一、二丁目あたりでも小さなバラツクが点在する程度で、仮換地の変更をしても社会的な影響が少なかつた。

(3) 当時の法令によると、建物建築につき、一般住宅は一〇坪、店舗併用住宅は一五坪、商業地区における建蔽率は二分の一以下、階数は二階以下に制限されていて大きな建物はなく、また、建築申請に当たり「都市計画による支障のある場合は何時にても市の指示に従い無償除却又は移転する」旨の請書を提出させており、建物の除却、移転に法的な障害はなかつた。

(二)  被控訴人は、一坪・二坪換地をする目的で、広島県所有の事業用地を一坪または二坪に細分して売却し、これを従前地として取り扱い換地処分をしたが、そのような手続は、土地区画整理法その他関係法令の定めに基づかない処分で、違法であることが明白である。

(三)  一坪・二坪換地は照応の原則、公平の原則に反する違法があり、その瑕疵は本件土地区画整理事業の換地処分の全体に附着するものである。

(四)  一坪・二坪換地による清算の時点は、換地計画の昭和四四年七月または換地処分の同年八月ころによるべきであるところ、当時の評価は一坪当り一〇万円を下回ることはなく、一坪・二坪換地総面積二万四〇一三坪から従前地とみなした六七二坪を差引いた二万三三四一坪の価額は少くとも二三億三四一〇万円以上となるものである。被控訴人はその清算金を取得した上施行地区内の従前地所有者に支払うべきであつた。しかるに、被控訴人はそれを昭和三〇年当時で評価して計算し、結局、清算金として総額一億九〇〇〇万円しか徴収配分しなかつたため、その差額相当分につき、従前地の減歩補償金が支払われなかつたこととなる。

(五)  超法規的違法阻却に関する被控訴人の主張事実は争う。

3  清算について

(一)  換地と従前地との評価による清算は、その根拠を明示して行うべきところ、その明示をしなかつた。法一一〇条が清算金を「国民滞納処分の例により徴収することができる」旨定め、土地所有者の意思いかんにかかわらずそれが決定され強制徴収されるのであるから、租税の基礎原理が適用され、行政法律主義及び手続の公正の要請から、清算金算定の根拠を明示すべきであるところ、被控訴人はこれを明確にしないまま、元地を不当に低く、換地を不当に高く評価して清算金処分を行つた。

(二)  清算基準時は、換地決定をした昭和四四年六月当時によるべきところ、被控訴人は昭和三〇年当時によつてした違法がある。

(三)  戦災のため街並は跡形もなく廃虚と化していたのであるから、工事施行前の路線価額は算定不能であつた筈であり、実際には、施行者被控訴人が施行前後の土地の総評価額が一致するよう操作する余地があるし、実際にその操作をしたものである。

四  被控訴人の主張

1  測量増地処理の適法性

(一)  測量増地は、そのすべてを道路、公園等の公共用地に当てたものである。そもそも測量増地は施行地区内の公簿面積と実測面積の各合計の差として算出されたものであつて、その位置形状等が判明しているものではなく、したがって、個々の土地についていかなる部分が測量増地でいかなる部分を公共用地としたかの特定が本来できない性質のものである。ところで、公共用地は整理前二二万四七二七坪であるのに対し整理後五〇万九二三二坪となり、二八万四五〇五坪の増加であり、測量増地三万二二〇五坪は右公共用地増加分の約一一%を占めている。そのすべてが公共用地とされたことは、右公共用地増加分のうち減歩地積から公共用地に当てられたものが二五万二二九九坪(267,679(減歩地積)-15,380(保留地)=252,299)でその差三万二二〇五坪が測量増地であつたことからも明らかである。

(二)  測量増地を街区内の従前地の公簿面積に按分の上還元することは、街区内の各従前地の増加比率が概ね同一であることを前提とするところ、測量による増地は施行地区全面積約一四四万坪の約二%強にすぎなかつたのであるから、各筆の実測面積が必ずしも公簿面積を上回るとは限らず、これらがすべて増加したものとみるのはかえつて公平に反し、測量増地の公平な按分を期するためには街区内全筆の実測をしなければならずそのためには時間、労力、経費が莫大となり社会的に不可能である。

(三)  控訴人ら主張のように各筆の従前地所有者に各測量増地を按分して還元する場合でも各筆の面積が一率に増加するため従前地の評価額は増加することになるが、右測量増地全体分が従前地分に加算されるから土地全体の評価総額の上昇の比率に変更を生じない。そうだとすれば、本件土地区画整理事業施行規程第二一条の規定による比例清算方式による清算においては各筆の元地額の変動が生じないから清算金の額についても変動を生じないことになる。

2  いわゆる一坪・二坪換地の適法性

まず、控訴人らは一坪・二坪換地を受けた者ではなくそれにより権利侵害を受けた者でもないから、その無効確認を求める法律上の利益を有しない。そうではないとしても、次のとおり一坪・二坪換地は適法である。

まず、一坪・二坪換地とは、当初の換地計画の変更により生じた未指定地を実質的に従前地所有者に還元する方法として、広島県所有地六七〇坪を六〇七筆に分筆して従前地とし、これに対する仮換地として合計二万四〇一三坪を広島県に指定し、しかる後に、右従前地一坪ないし二坪を売却することによつてその買主に対して仮換地(終局的には換地)として指定された右土地の使用収益権(終局的には所有権)を賦与することとしたものである。

(一)  いわゆるドツヂ構想による経済安定九原則により国家予算は極度の緊縮を余儀なくされたのに伴い、被控訴人は昭和二七年三月に本件土地区画整理事業の計画を変更し道路、公園等公共施設を縮小した結果、生じた未指定地の一部約二万四〇一三坪につき一坪・二坪換地をした。しかし、

(1) 政府が昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」を閣議決定し、同日付で建設省都市局長から各都道府県知事あて通達により事業費節減のため、街路、公園等の公共設備の計画及び施行地区の縮小を求めたものであるが、被控訴人が全く予想していなかつた事態のためその対応に時間を要し昭和二七年三月に漸く事業計画の変更にいたつた。

(2) 仮換地予定地の発表は昭和二四年三月までにほとんど全地区にわたつて行われ、仮換地指定も逐次行われており、戦災で住居を失つた住民が右仮換地またはその予定地上に建物を建築して居住し始め、その利用者が漸増し、一坪・二坪換地の行われた昭和三一年ころまでには権利者のほとんど全員が仮換地上に建物を建て居住していた。したがつて、仮換地の指定を変更することは社会的な影響が大きく不可能であつた。

(3) 当時の法令については争う。

(二)(1)  一坪・二坪換地についてその根拠となるべき直接の明文法規がないが、法九一条一項の過小宅地に対する増換地の規定を類推適用したものである。すなわち、土地区画整理法には一坪・二坪換地を定める明文の規定はないが、強いて同法の条文に根拠を求めれば同法条であり、同法条が、照応及び公平の原則の適用を排除し一般の換地処分とは異なる大きな増歩率による換地処分が許される場合として規定しているが、これと同趣旨の場合であるから右法条の類推適用が可能である。

(2) そうではないとしても、関係法令にその直接規定がない場合施行者が法の趣旨目的からみて合目的的にその換地処分の方法を裁量により決定することができ、その裁量権の濫用にわたらないかぎり、適法有効なものと解すべきである。本件において、前記のように仮換地が地上に建物が建築され使用されている状態のもとでは、仮換地指定を変更することは不可能であり、未指定地を保留地として売却しても事業費となるだけてあつてその利益は従前地所有者等に還元されず、未指定地をそのまま売却することもできないので、やむをえず、一坪・二坪換地の方法をとつたもので、それは法に照し合目的的な裁量であり裁量権の濫用にも当たらないから、適法である。

(3) 被控訴人は一坪・二坪換地処分の実施に当つては昭和三一年一月三一日権利者代表者をもつて構成する土地区画整理委員会に諮つてその同意により決定し、売却については同年一〇月三〇日作成した本件土地区画整理事業「施行区域内の未指定地売却基準」に従つて原則として一般競争入札により、落札決定に当たつては一筆ごとに土地区画整理審議会に諮つた上で決定したものであるから本件処分は適法である。

(三)  一坪・二坪換地は、照応及び公平の原則が適用される場合ではない。すなわち

(1) 本件で未指定地が土地区画整理法上そのままでは売却できないので、これを売却する手段として換地することとしたのにすぎず、広島県が受けた換地はすべて売却され、売却代金は土地所有権者にすべて還元され、広島県に帰属した利益は何も存しないから、通常の換地処分とは異なるもので、照応及び公平の原則が適用される事実関係も必要性もない。

(2) 一坪・二坪換地は、照応及び公平の原則の適用が排除される法九一条一項を類推適用したものであるから、これに照応及び公平の原則を考慮することは失当である。

(3) 一坪・二坪換地は、未指定地を土地で従前地所有者に返還する方法がなかつたため、売却代金を清算金として還元したもので、被控訴人の裁量の範囲内の処理であり、超法規的事由によつて、形式的に条文を適用して対処することがかえつて法の趣旨に反するような特殊の事態が生じ、そのような状況においてなされた処分であるから、実質的に適法であるというべきである。

(四)  一坪・二坪換地は、その処分に当つては処分時の時価評価に基づき仮清算金(最終的には清算金)として徴収し、それを清算金に繰り入れたものであるから、控訴人ら主張のような昭和四四年当時の時価(それ自体根拠は不明であるが)と比較して論ずること自体当を得ないものであり、個々の宅地の評価はそれぞれ異なるが、施行後の清算処分の対象となる全宅地の評価額約七七億八八五〇万円、総地積約九二万坪、その平均の一坪当り価額は約八四七〇円で、一坪・二坪換地の平均坪当り価額とさして差もなく、控訴人ら主張のように安すぎるとは到底いえない。

(五)  超法規的違法阻却事由の存在

前記(一)冒頭の閣議決定に基づく通達により当初の事業計画の公共施設を縮小することを余儀なくされたが、それは当初全く予想せず、しかも事業が相当進行した段階で、事業施行者である被控訴人に事業計画及び事業施行上の帰責事由がなく、外部からの右後発的強制に基づき、未指定地が発生し、結果的には未指定地分だけ余分に従前地を減歩した事態となつたため、その解決策として案出したのが、一坪・二坪換地で、超法規的な違法阻却事由が存在する。

3  清算の適法性

(一)  清算金の制度は、従前地と換地とが照応していることを前提として、換地相互間の若干の不均衡を是正するものである。ところで法一一〇条五項が清算金につき施行者に強制徴収の権限を与えたのは、右制度の趣旨を十分に達成するために設けられたもので、施行者の収入をえるために強制徴収するものではないから、施行者には、清算金算定の根拠を明示する義務がない。

(二)  清算の基準時期は工事概成の昭和三〇年三月であり、換地処分時の昭和四四年八月をもつてすべきものではない。

(三)  工事施行前の路線価額は、昭和二二年ころの整理前の状況を基準に算定したものであつて、公共施設の原形測量による成果、整理前の街路図及び主要施設の位置図、旧土地台帳に登録された賃貸等級等を総合的に考慮し、路線価算定要領に基づき各路線ごとに係数を決め、評価員の意見を聞きながら決定したものである。また、本件事業における清算金の算定は前記のとおり比例清算方式を用い、施行前の評価総額約七四億四〇〇〇万円と施行後の評価総額約七七億九〇〇〇万円との差額を従前地各筆宅地評価額に比例按分して清算金を徴収し、整理の前後の総評価額を同額としたものであり、その方法は一般に承認されており適法である。

五  証拠関係〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

一  控訴人らの本訴請求中、被控訴人が昭和四四年六月上旬ころした本件土地区画整理事業の換地計画が無効であることを確認する旨の訴の適否について検討する。

土地区画整理法に基づく事業の換地計画は、事業計画で定められた事項を具体化するための計画で、同法八七条に従い換地設計、各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細、保留地その他の特別の定めをする土地の明細、その他の事項を詳細に定めるもので、内容的にみると、施行区域内の従前地の所有権その他の権利を区画整理後に換地その他どのようなものとして処理するかという権利変動の方針を定め、変更がないかぎりその計画どおり換地される点で、個別的権利変動の必然性ないし高度の蓋然性が確定される。換地計画の確定手続として、これを二週間公衆の縦覧に供して利害関係人の意見を聞き、これを採択する場合換地計画を修正の上再度縦覧に供するなどの慎重な手続が必要である(同法八八条)けれども、換地計画自体によつては未だ関係権利者の権利変動までは生ぜず、これに基づく仮換地指定、換地指定などにより具体的個別的な権利変動が生じてくるものであり、この段階で抗告訴訟を肯認すれば足りる。そうだとすれば、換地計画は、争訟の成熟性、処分性に欠け、無効確認訴訟の対象となる行政処分に当たらないものと解するのが相当である。したがつて、控訴人らの前記換地計画無効確認の訴は不適法であり、却下を免れない。

二  控訴人らの本訴請求中、被控訴人が昭和四四年七月上旬ころした換地処分が全体として無効であることを確認する旨の訴の適否について検討する。

換地処分を受けた者は、自己の従前地所有権などの権利につき侵害を受けた限度で無効確認を求める利益を有し、その認容判決があると、その部分につき無効となり、換地処分全体からみると一部が無効となるが、その効果は訴訟当事者である換地処分を受けた者と事業施行者間にのみ生じ、事業施行者はその判決を尊重しその手続段階に応じて可能な是正措置を講ずる義務を負うけれども、訴訟当事者ではない換地処分を受けた第三者にはその効力を及ぼすに由ない。したがつて、換地処分を受けた者は、自己の換地処分につき争えば足り(控訴人らは本訴において、別に、自己の換地処分の無効確認をそれぞれ求めている)、それ以上に第三者への換地処分を含む換地処分全体の無効確認を求める法律上の利益を有しないものと解するのが相当である。控訴人らの前記換地処分全体の無効確認を求める訴はこの点から不適法として却下すべきものである。

三  控訴人らの本訴請求中、被控訴人が同年八月一九日した換地処分公告の無効確認を求める訴の適否についてみるのに、換地処分の公告は被控訴人が法一〇三条四項、五項によつてしたものであるところ、公告の日の翌日から換地が従前地とみなされ、換地計画で換地を定めなかつた従前地について存する権利が公告があつた日が終了した時に消滅する(一〇四条一項)こととなるが、これは換地処分に附随する効果を法が一般的に付与したにすぎず、公告自体により関係権利者の権利侵害を生ずることもなければ、公告の無効確認をしても換地処分が無効となるわけではないから、無効確認の対象となる行政処分には当たらないと解すべきであり、また、公告を通じて控訴人らが第三者への換地処分を含む換地処分全体の無効確認を求める法律上の利益を有しないことは前記二と同一であるので、控訴人らの前記換地処分全体の公告の無効確認を求める訴は不適法として却下すべきものである。

第二本案について

一  当裁判所の本案に関する判断は、本件争点のうち測量増地、いわゆる一坪・二坪換地、清算及びその関連部分につき次のとおり改めるほか、原判決理由の記載と同一に判断するので、これをここに引用する。

二  測量増地について

原判決五二枚目表六行目「権利を侵害し」の次に「また、測量増地の処理を誤り」を、同九行目「および」の次に「成立に争いのない乙第八号証」をそれぞれ加える。

同五二枚目裏五行目「一方被告は」とあるを「ところで、従前地各筆の実地測量を行うことは地権者の所在不明、担当職員の不足等により長期間を必要として本件事業の早期達成の目的に合わず、また、莫大な費用を必要とすることからその実施が不可能であつた。そこで、被控訴人は従前地各筆の面積については実測面積によらず公簿面積によることとし、」と訂正する。

同一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「ハ 測量増地三万二二〇五坪はすべて街路、公園等の公共施設にあてられ、一坪・二坪換地に当てられたものはない。

ニ 前記のとおり従前地の地積は土地台帳により確定し、実測面積は全体を算出しただけで、各筆ごとに行なわれなかつたので街区内の各筆のうちいずれが測量増がありいずれが測量減があるかは確定しなかつた。

ホ また、測量増加比率が前記のように低いため、それにより全体の整理後の土地の評価に影響を及ぼすことが少なく、さらに、比例清算方式の清算額は、従前地評価額に整理後の全地積の評価増率(換地の評定価額の総額を従前地の評定価額の総額で除して得た数値)を乗じた額(元地額)と、換地評価額との差額により算定されるから、仮に測量増地分を各筆に按分還元して評価額を計算しても右計算によれば元地額に変動が生じないから清算金額についても変動が生じないこととなる。」

同五四枚目表一〇行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「(5) また、測量増地はすべて公共施設に当てられその処理に違法はなく、街区内各筆の地積増加の有無及び割合が確定されず、また、測量増加割合が全体の約二%でその確定をする実益に乏しいから、控訴人ら主張のように街区内各筆公簿地積に按分してこれを換地することは実際に不可能であり、また、そうすることが必ずしも公平に合致するとはいい難く、換地の評価増があつても、それが測量増加によるものは僅少で、清算額にも所論の影響を及ぼさないから、測量増地の処理に控訴人ら主張の違法はない。」

三  いわゆる一坪・二坪換地について

原判決理由二2(四)(五四枚目表末行目冒頭から五九枚目裏七行目終りまで)を次のとおり改める。

「(四) いわゆる一坪・二坪換地について

被控訴人は、控訴人らが一坪・二坪換地を受けた者ではなく、また、それにより権利侵害を受けた者ではないから、それを抗争する法律上の利益がないという。しかし、土地区画整理事業は補償による土地の収用ではなく、あくまでも健全な市街地形成のための土地の再分配であるから、土地の代わりに金銭で補償すればそれで足りるというものでもなく、一坪・二坪換地が無効であれば、控訴人らはその部分につき増換地をえられる権利があるから、それを抗争する法律上の利益を有する。よつて、以下、その実体につき検討する。

(1)  前顕二1冒頭(原判決四九枚目表)記載の各証拠及び各成立に争いのない甲第一六号証の一ないし四、弁論の全趣旨から成立が認められる甲第二一号証を総合すると、次の事実が認められる。

(イ)(a) 政府が昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」を閣議決定し、同日付で建設省都市局長から各都道府県知事あて通達により事業費節減のため、公園、街路等の公共設備の計画及び施行地区の縮小を求めた(この事実は概ね当事者間に争いがない。)ため、被控訴人がこれに基づき昭和二七年三月事業計画を変更し、公園、街路等の公共施設を縮小した結果六万〇三六〇坪の未指定地が生じ、そのうち計画変更による仮換地指定をしたもの二万〇九六八坪、一坪・二坪換地をしたもの二万四〇一三坪、保留地として売却したもの一万五三七九坪である。しかし、被控訴人は当初の事業計画の変更を予想しておらず、その事業の施行が相当程度進行した段階での事業計画変更であつたため、その対応に相当の時間を要した。

(b) 換地予定地の発表は、昭和二四年三月までにはほとんど全地区にわたつて行われ、その指定または仮換地指定(バラツク等を現実に除去し使用可能となつてからその指定をした。)も逐次行われていたが、戦災により住居を失つた市民が右仮換地予定地または仮換地上に建物を建てて居住し始め、昭和二七年ころにはすでに全体の約六割に相当する土地上に右のような建物が建築され居住の上その土地の使用がされており、従前の仮換地指定を変更し右建物の除却、移転を求めることは、社会的経済的な影響が大きく、不可能であつた。

(c) 当時の建築法令からみても、物資統制が緩和された昭和二五年ころから急速に建物の建築が本格化し(このことは公知の事実である。)、当時の行政指導や換地計画上建物の除却移転を命じられたときはこれに従うとの念書の差入れなどもすべての場合に徹底していたわけではなく、当時建物の除去移転は必ずしも容易ではなかつた。さらに、換地計画を全面的に変更し仮換地指定を変更すると数年を要する見込で、その間施行区域内の土地の権利変動が制限され、法的な不安定を招くことを避けなければならなかつた。

(ロ)(a) 前記(イ)の事情に加え、右一坪・二坪換地にあてられた未指定地を含めて全体の仮換地をすることは今後長年月を要する見込で早急に土地区画整理事業を完成する方針に反し、未指定地を保留地として売却すれば代金が工事費用に充当され国及び広島県の負担が軽減するが、その利益は直接には従前地所有者の利益とならないので、その利益を直接還元する方法について考慮された。そこで、広島県の係員が再三にわたり当時の監督行政庁であつた建設省係官の行政指導を受け、法(昭和三〇年九月一日施行)九一条一項(過小宅地とならないよう換地を指定できる旨)を類推適用できるとの見解に立つて、被控訴人が昭和三〇年一〇月ころ一坪・二坪換地の基本方針を決定した。

(b) 被控訴人は広島県所有事業用地の売却については事業用地売却要綱(乙第七号証の一)をもうけたが、一坪・二坪換地については、その一部についての特則の形式で、未指定地売却基準(乙第七号証の二)をもうけ、事業用地を分筆して、事業用地売却要綱二条で定める者(施行区域内の土地の所有者、地上権者、永小作権者及び賃貸権者その他区域内の土地を使用し、又は収益することができる権利を有する者、事業施行のため特に必要と認められる者)に売却するものとし、未指定地売却基準では「一、未指定地を売却しようとするときは、従前の土地(午蒡抜買収地の一部)を分筆して、未指定地に増換地指定の上売却するものとする。二、未指定地売却の決定通知を受けた者は、払下代金として従前の土地売却代金並びに増換地に対する仮清算金を支払わねばならない。三、従前の土地の売却代金仮清算金は、契約締結と同時にその金額を徴収するものとする。(後略)」とし、契約書様式には、被控訴人がその所有に係る次の土地を売渡すとあり、その土地については、従前の土地(町名、地番、地目、台帳地積)及び仮換地(地区、ブロツク、仮換地地積)を具体的に記載するように定められている。

(c) 被控訴人は前記(a)の一坪・二坪換地の基本方針を決定するに当たり審議会に諮問しその同意をえている。

(ハ) その具体的方法は次のとおりである。

(a) 未指定地をその余の従前地所有者全員に平均して増歩すると僅少地積となり、前記のように、建物の除却移転を要するので、その対象者を、従前地の所有者、借地人などから申告があるが当時の混乱した社会情勢からその権利及び地積の確定が困難である者、換地面積の減少により地上建物、工作物の一部取壊しを要する者など、円滑迅速に事業を遂行するのに支障となる者に限定して土地を還元し、他方、未指定地から利益を受けなかつた地権者に対しては、土地の換地に代え、金銭清算を行うこととし、その財源は、一坪・二坪換地の方法でその清算金を徴収して、これに当てることとした。

(b) そこで、被控訴人は、施行区域内に散在する広島県所有の事業用地(換地を希望しない従前地所有者などから買上げ減歩率緩和など事業施行上の必要があるときに処分するもの)約一万八〇〇〇坪のうちから一坪または二坪ずつに分筆して、これを法九一条一項の過小宅地であるような外形をとり、これを従前地と取扱い、広島県に対し、増換地としての仮換地指定をした。実際上は、前記(a)の対象者が従前施行区域内で使用していた場所、概略の地積などと、未指定地の場所、地積などの関係も一応考慮した上、審議会の個別の同意をえた後、その場所、地積に符合させて、仮換地指定を行つた。広島県はその後その都度速やかにその選んだ者に対し、仮換地指定済の従前地を前記(ロ)(b)の方法により売却した。この方式で昭和三一年から昭和三六年にかけて広島市に対して行われた仮換地指定が六〇七件に及び、そのために使われた広島県有地が合計で六七〇坪、一坪または二坪に分筆された筆数が合計六〇七筆に達し、したがつてまた、広島県が右仮換地指定を受けた後、従前地の売却を受けた者の数も合計六〇七名となつた。

(c) 広島県の受けた仮換地六〇七件の地積分布は、二〇坪(被控訴人が過小宅地と定めた地積)以下が全体の約一二%、二〇坪以上五〇坪未満約七三%、五〇坪以上約一二%である。また、本件土地区画整理の平均減歩率は二二・五%(土地台帳面積に比例した換地面積の決定方法による。)である。

(ニ) 広島県は従前地合計六七〇坪と仮換地合計二万四〇一三坪との差額金約一億九〇〇〇万円を被控訴人に支払つた。その評価は、前記のようにしてした各売却の時点における評価員の個別評価を基準とし、広島県が仮換地済の一坪・二坪の買主に、一坪または二坪と各仮換地面積との評価差額金をも前記(ロ)(b)の方法で支払わせ、広島県が保管の上、昭和四四年に被控訴人に一括して支払つた。被控訴人はそのころこの清算金(及び六七〇坪の代金も含む。)を換地計画上の清算金に繰り入れ、施行区域内の従前地所有者(ただし、未指定地から仮換地指定を受けた者、一坪・二坪換地を受けた者を除く。)に従前地評価額に按分比例して支払われた。

以上のとおり認められ、これを左右する証拠はない。被控訴人は、右認定の仮換地指定済の従前地一坪・二坪の売却については、一般競争入札の方法で行いその後一筆ごとに審議会の同意をえた旨主張するけれども、当時本件土地区画整理事務を担当した別件証人茂森拓(乙第一六号証)、広岡昂(乙第一七号証)の各証人調書の記載に反し、また、これを認めることのできる的確な証拠もない。

(2)  右認定事実に基づいて考察する。

(イ)(a) 政府が閣議決定をし通達を出した昭和二四年六月から被控訴人が事業計画の変更をした昭和二七年三月までに二年九か月を要したことは控訴人所論のとおりであるが、被控訴人が事業変更を余儀なくされた当時すでに事業が相当程度進行しており、その状況からみてその対応に相当の時間を要したことが首肯でき、それが被控訴人の帰責事由により遅滞したことの特段の事情も見当らないから、この点では控訴人ら主張の瑕疵はない。

(b) 前記認定のとおり昭和二七年当時すでに仮換地を受けた者の約六割が、地上に建物を建てて居住等の上仮換地の使用を始めている状況で、控訴人ら主張のように建物が散在していたのにすぎないものではなかつたから、その建物の除却、移転を要するような全面的な仮換地変更は、社会的、経済的な影響が大きく、困難ないし不可能であつたものとの被控訴人の判断は是認することができ、その点では何らの瑕疵もない。

(c) 仮換地上に建物を建てる際に事業の必要に応じ建物を除却、移転する旨の念書を建築主に提出させていたことは控訴人ら所論のとおりであるが、それがすべてにつき徹底していたものではない上、当時の物資が豊かではなかつた経済状況下においてそれを除却、移転することの経済的損失は著しく、社会的な不安をも招きかねなかつたから、実際にこれを強行することは容易ではなく、なるべく混乱を避け円滑迅速に事業を遂行するため全面的な仮換地変更をしなかつた被控訴人の処置に誤りはなく、これを違法とする理由は見当らない。

(ロ)(a) 被控訴人がした一坪・二坪換地の法的根拠は、法九一条一項の類推適用にあること前記認定のとおりである。しかし、法九一条一項は、その地上に住宅が建てられ居住していた従前地に減歩換地などをする結果過小宅地となる場合には、災害防止、衛生向上、適正地積の観点から、過小宅地とならないように、そして、その限度で、増換地をすることができる旨定めたもので、その意味において、他の換地と異なり、照応及び公平の原則の適用が排除されている。しかし、その増換地割合は、右性質からみて自ら制限があり、同条同項が過小宅地とならない限度を越えるような大きな増歩率による換地をも認めた規定であるとは解されず、一坪または二坪を従前地とした場合増換地比率が平均三五・八倍に達するような高い増歩率の換地は到底同条同項の予定するものではなく、その点では、本件一坪・二坪換地に類推適用すべき基礎を欠くものというべきであり、その他の点でも、同条同項を類推すべき根拠に乏しい(通常、一坪または二坪という地積の土地は、宅地として増換地するのが適当とはいえず、同条三項で換地を定めない取扱いをすべきこととなる。)。したがつて、一坪・二坪換地には、法九一条一項の過小宅地に対する増換地の趣旨が類推適用されないものと解するのが相当である。この点で、被控訴人のした一坪・二坪換地は、違法であつたものということができる。

(b) しかしながら一坪・二坪換地は前記認定のような経過で本件区画整理事業の計画が変更されたことにより、その結果発生した未指定地の一部についてとられた処置であるが、右計画変更の時点においては従前の仮換地指定を変更して、右未指定地の一部をそのまま従前地所有者等に均等に返還することは到底不可能な状態にあつたので、これを従前地所有者等に還元するためには、対象者を限定して土地を還元し、他の大部分の者には金銭清算の形で償還することとし、そのために右未指定地を仮換地、売却する手段としてやむなく法九一条一項を類推してなされたものである。そうしてその方法を採用するに当つて被控訴人がとつた処置、一坪・二坪換地として具体的にとられた方法、金銭の償還等前記認定の事情に照らせば一坪・二坪換地は十分従前地所有者等の利益を慮つて公平になされたものということができるので、法九一条一項の趣旨に反する点で違法ではあるがその瑕疵は必ずしも重大、明白であるとはいい難く、この点において、一坪・二坪換地は無効であるとすることはできない。

(ハ) 一坪・二坪換地は前記のとおり法九一条一項の類推適用があるものとして行われているので、当初から照応の原則を排除しているものであり、既に判断したとおりそのような九一条一項の形式によることの適否が問題とされるだけであり、その形式でいう一坪または二坪を従前地とみてこれと仮換地の地積割合が平均三五・八倍となつた点をとらえてこれを直ちに一般の換地減歩率と比較する根拠がないから、控訴人ら所論のように、照応の原則に反し無効であるとすることはできない。

(ニ) 換地に際し従前地との差額を清算する基準時期は、仮換地と同一内容で換地されるとの仮換地の性質からみて、仮換地の時点であると解すべきであり、本件においても、一坪・二坪換地につき広島県に対し各仮換地をした時点であるところ、前記認定のように、各仮換地指定の時点で評価員の個別の評価に基づいて評価決定しその差額が清算されているから、一坪・二坪換地の清算につき控訴人ら所論のような違法はない。

四  清算について

1  原判決六四枚目表二行目冒頭から同七行目「清算金」までを次のとおり改める。

「(一〇) 清算について

(1) 前顕二1冒頭(原判決四九枚目表)記載の各証拠を総合すると、次の事実が認定できる。

(イ) 被控訴人は各従前地所有者に対し換地処分をする際その清算の根拠を示すことなく、清算金の徴収命令を発し、または、交付をした。しかし、本件土地区画整理事業施行規程一九条では、従前地及び換地の評価は「評価員の意見を聞き、その位置、地積、区画、土質、水利、利用状況、固定資産税の課税標準、環境等をしんしやくして定める」とされ、路線価式評価法を用いて各評価がされ、また、その清算方式については、前記「(三)測量増地について(1)ホ」に述べたとおり定められ、土地評価基準ももうけられ、これらの内部的基準に従つて評価、清算が行われた。

(ロ) 清算評価の基準時期は工事概成時の昭和三〇年三月によつた。

(ハ) 工事施行前の路線価額は、土地評価基準及び路線価算定要領(建設省の定めたもの)に基づいて行われ、評価員の意見を聞いて決定したが、戦災前の広島市の切絵図(後の広島法務局廿日市出張所に保管されていたもの)により各筆の相対的位置、形状、加算地積を各筆ごとに考慮の上評価し、各評価点の指数図(基準一点当たり四三円二〇銭)を作成し、一筆ごとに集計し総額約七四億四〇〇〇万円を算定した。整理後の各土地の評価は昭和三一年ころから昭和三二年にかけて実地調査の上事業計画街路網図と対照し前記路線価算定要領に基づき各事項を定め、土地評価基準に準拠して、奥行価額一〇〇分率、側方加算影響率、三角補正率等の係数を算定の上、評価委員の意見を聞いて各筆の評価額を定め、それを集計し総地積の評価約七七億九〇〇〇万円を算定した。整理後の総地積の整理前の総地積に対する評価増加率は一・〇四七二三となり、これを基準に各筆の比例清算がされ、各清算金の徴収、交付につき、審議会の同意をえて行われた。

以上のとおり認められ、これを左右する証拠はない。

(2)(イ) 右認定の各事実によると、清算についての整理前後の土地評価方式は路線価評価法により、各土地評価については土地評価基準も定められ、評価員の意見に基づいて各従前地及び換地の評価がされ、比例清算方式で清算金の徴収、交付が行われたものであり、その清算の基本方針は前記認定のように本件土地区画整理規程、土地評価基準で定められているところである。控訴人らは抽象的に個別的な清算根拠の明示をしなかつた手続についてその違法性を主張するけれども、清算ことに土地評価の専門的技術的性格からみて、評価員の評価意見に基づき決定され審議会の同意をえたことで、その適法性が推定され、その手続の中で各従前地所有者が審議会委員を通じて意見を述べる機会が保障されているというべきであるから、個々の清算金の徴収、交付の際その算定根拠を明示しなくても違法であるとはいえない。

(ロ) 清算のための評価の基準時期」

2  同六四枚目裏三行目「、および」以下四行目「採用したこと」までを削除する。

第三結論

以上のとおりであるから、控訴人らの本訴請求中、控訴の趣旨(二)項の各訴は不適法として却下を免れず、同(三)項の各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三 高木積夫 池田克俊)

換地処分(変更をふくむ)通知一覧表〈省略〉

原審判決の主文、事実及び理由

主文

1 請求の趣旨第1項及び第3項の訴をいずれも却下する。

2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が、昭和四四年六月上旬ごろ、土地区画整理法八六条一項により決定した広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業(一工区)の換地計画及び右換地計画に基づき、同年七月上旬ごろなした換地処分は、全体として無効であることを確認する。

2 被告が、原告らまたはその先代らに対しそれぞれなした、同月七日付別紙換地処分通知(一部一覧表)及び同年八月一九日付別紙換地処分変更通知(一覧表)に記載された各換地処分は、いずれも無効であることを確認する。

3 被告が、同年八月一九日、前記土地区画整理事業の換地処分全体につき同法一〇三条四項によりなした換地処分の公告は、無効であることを確認する。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

二 本案前の申立

1 本件訴のうち、請求の趣旨第1項及び第3項の部分をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

三 請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告らは、別紙換地処分通知一覧表(通知書一部を含む―以下同じ)記載のとおり、同表記載の各土地につきそれぞれ所有権を有しているものである。但し、別表(一)に記載されている各原告は、同表記載のとおりの経過で、換地処分通知の名宛人からそれぞれ相続により権利を取得したものである。

2 被告は、昭和四四年六月上旬ころ、土地区画整理法(以下単に「法」という。)八六条一項により、広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業(一工区―以下「本件土地区画整理事業」という。)の換地計画を決定し、同年七月初旬ころ(一部原告に対しては同年八月一九日)、この換地計画に基づき、原告らを含む右工区内の関係権利者に対し、別紙換地処分通知一覧表記載のとおりの換地処分または換地処分変更の通知をして、それぞれ換地処分をなし、同年八月一九日その旨の公告をした。

3 しかしながら、右換地計画には次のような数多くの重大且つ明白な瑕疵があるので、それ自体無効であり、したがつて右計画に基づきなされた本件換地処分は、原告らに関する部分ばかりでなく全体としても無効であり、またこれらの換地処分につきなされた公告も当然無効である。

4 本件換地計画を無効とする事由

(一) 平均減歩率について

(1) 被告の公表した平均減歩率二割六分二厘は、土地区画整理事業史の例からみて高率であり、しかも人類最初の原爆を受け肉親を失い、動産を奪われ再起のために残つた唯一の財産である被爆地帯の土地に対してまことに苛酷な処分である。

(2) 原告らを含む地主らは、このような苛酷な減歩を受けたうえ、莫大な徴収金を取られたり、あるいは僅かの交付金を受けるにとどまり、いずれにしても財産権の重大な侵害を受けている。

(3) したがつて、右のような高率な減歩を決めた本件換地計画は、明らかに憲法二九条の財産権保障の原則に違反するものである。

(二) 未指定地について

(1) 未指定地を発生させたことの違法

イ 昭和二二年ごろから昭和二四年ごろにかけて、被告より仮換地指定がなされ、その当時の計画では公園、緑地、街路等とされていたものが、後の事業計画の変更により、これらが縮小されたため、推定一一万坪以上(県の公表資料では約六万二〇〇〇坪)の剰余地が生じたところ、被告はこれを未指定地と呼称した。

ロ 未指定地という名称は、法令上も存しないし、施行者において仮換地の指定が殆んど終了し、実際上変更が困難な段階になつて事業計画を変更し、かような事実上の未指定地を一一万坪余も生じさせたことは、重大な違法である。

(2) 未指定地処理の違法

未指定地一一万坪余は、施行者において勝手に処分できるものではない。このような土地は、減歩された地主に対し按分して返還すべきであつたのに、被告は違法に処分した。

(三) 測量増地について

本件土地区画整理において、被告は、元地地積を実測せず、土地台帳記載の地積によつて従前の土地各筆の地積を決め、これにより換地計画を定め、換地処分を行つている。そのため約三万二二〇五坪の測量増地が生じたが、このようなずさんな手続は、関係権利者の権利を侵害するものである。また、右測量増地は、これを元地所有者に按分して返還すべきものであるのに、被告は違法に処分した。

(四) 一坪・二坪換地について

(1) 本件土地区画整理においては、事業計画の変更により公共施設の計画が変更され、前述のように一一万坪以上(県の公表資料によれば約六万二〇〇〇坪)の未指定地が生じたが、このような場合、その土地は減歩された地主に按分して配分すべきであつて、換地設計そのものを変更すべきであつた。

(2) しかるに被告は、右未指定地や、前記測量増地の処分の一方法として、一坪換地、二坪換地という全国に例を見ない方法を考え実施した。その内容は、特定の未指定地を処分するために、この土地を仮換地ということにし、県有地に属する別の一坪又は二坪の微細な土地を右仮換地の元地ということにして、右元地の売買という形にして、実質は仮換地の売買をしたのである。例えば、甲所有の本件工区内の土地(宅地)六六平方メートルを、昭和二三年三月二〇日同人より広島県が売買により取得し、昭和三三年一月一〇日これを一〇筆に分筆登記し、その一筆六・六平方メートル(二坪)を同年三月一四日乙が広島県から売買により取得し、この二坪の土地を元地として、乙は同工区内に一一九・五九平方メートル(三六・一二坪)の土地を換地として取得したという形にしたのである。

(3) その精算は、昭和三〇年の時点で行うというのであるから、結局一坪・二坪換地は、これを全体としてみると、被告が処分できない未指定地等の土地を、区画整理前の土地所有者の負担で、極端に低廉な価格で売却するということなのである。このような扱いで処分された土地が本件工区内全体で六〇七筆もあり、元地合計六七二坪が二万四〇一三坪の換地になつている。増換地が許されるのは過小宅地救済の場合(法九一条)と公共の用に供する施設のための特別な宅地の場合(法九五条)のみである。

一坪・二坪換地は、被告が自ら作り出したものであるから、自ら作り出した過小宅地を救済するため、極端な増換地をすることは、一般の地主の権利を侵害するもので、土地区画整理法八九条の照応の原則に違反し、また憲法二九条の財産権の保障に違反するものである。

(五) 増換地について

本件では、土地区画整理委員となつている者、その他特別の者に対して、元地(従前の土地)が過小宅地でもないのに、おおむね現地換地がなされ、しかも元地より地積が増加した換地を受けている者が約九〇〇人もいる。かようなことは、大部分の地主が減歩を受けているのに、一部の者のみが、事業の機会を利用して他の地主の土地をかすめとつたことになり、公平の原則上許されないことである。

(六) 飛換地について

別の工区から本件工区(一工区)内に飛換地されたものが約一万坪ある。しかし飛換地は、工区間に減歩率の甚だしい不均衡がある場合、減歩率の高い工区にある元地につき、それの低い工区に換地することが許される例外的な処分である。本件事業においては、何等合理的な理由がないのに飛換地を行つている。したがつて、被告がなした本件飛換地の処分は違法である。

(七) 広島市有地に対する換地について

本件事業では、広島市に対し、普通財産たる市有地につき、一万七〇〇〇坪の増換地がなされているが、これは本件区画整理のどさくさにまぎれて行われたもので、火事場泥棒的な処分であり、断じて許されない。

(八) 保留地について

本件土地区画整理事業においては、未指定地、測量増地により、保留地一万五〇〇〇坪が捻出されているが、それには次の如き問題がある。

(1) 広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業施行規程(以下単に「施行規程」という。)六条によれば、「事業費は全額県において負担する。」と規定されている。したがつてこの規定からして保留地を設定すること自体が許されない。

(2) 昭和四四年五月二八日被告作成の清算金総括表によると、本件土地区画整理事業の施行の前後の宅地の価格総額の差は零となつている。したがつて本件において保留地を設定することは、法九六条の規定により許されない。

(3) 被告は、事業遅延のため事業資金に充てる必要上、保留地約一万五〇〇〇坪を定めざるを得なかつたと主張しているが、事業の遅延は被告の責任であつて、この責任を一般地主に転嫁することは許されない。

(4) 被告は、右保留地を昭和三〇年時点の時価で処分し、買主に不当な利益を与え、地主に莫大な損害を与えている。

(九) 評価時点について

被告は、清算評価時点を昭和三〇年三月時点としているが、これは全くのごまかしであり許されない。清算金の実質は損失保償金であるから、支払が現実に履行されるときの時価でなさるべきであり、施行者においてほしいままに基準時を決定する権限を有するものではない。

(一〇) 各筆の評価について

本件事業の対象となつた土地各筆の清算金算出の基礎となる各筆の単位面積当りの評価の算出が全くでたらめであり、徴収又は交付金は、何らの基準もなく、担当官のその場の思いつきで算出されており、公平の原則に反する。

(一一) 国道、平和公園等のただ取りについて

本件工区内に存する国道二号線敷地、平和公園、一〇〇メートル道路等別表(二)記載の各公共施設の土地については、本来国、県、市の各管理者において、その取得土地につき正当なる対価を支弁すべきである。しかるに、国、県、市は、本件事業のどさくさにまぎれて、何ら対価を支弁することなく莫大なる土地を盗み取りしている。これは明らかに憲法二九条に違反する。

(一二) 換地各筆の照応について

原告らの元地と換地とを比較すると、その位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等いずれも換地の方が極端に劣つている。したがつて、法八九条の照応の原則に違反していることは明白である。

(一三) 舟入川口町、西川口町及び舟入幸町の一部について

本件工区内にある右の地区は、昭和九年組合施行により区画整理がなされた地域であり、重ねて区画整理を行う必要は殆んどなかつた。

したがつて、関係者は終始反対してきたが、被告はこれを無視して本件区画整理を強行し、莫大な土地をただ取りした。

右地域には工事設計上道路拡大がなされたことになつているが、現実には全然実施されず従来どおりで、しかも土地だけとられた地域が約六〇〇〇坪もあるし、道路が従前より悪くなつたところも多い。したがつて、右地域についての換地計画は違法である。

5 よつて原告らは、請求の趣旨のとおり、本件各処分がいずれも無効であることの確認を求める。

二 本案前の申立の理由

1 原告らは、本件換地計画及び換地処分全体の無効確認を求める訴の利益を有しない。

(一) 換地計画は、本件事業の青写真たる性質を有するにすぎず、未だ訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くから、これが換地計画の無効確認を求める利益のないことは判例上明らかである(最高裁昭和四一年二月二三日大法廷判決民集二〇巻二号二七一頁)。

(二) また、換地処分は、関係各権利者に対して、関係事項を通知することによつて、関係各権利者ごとにそれぞれ換地処分の効力が生ずるものであるところ、原告らは、請求の趣旨第2項において、いずれも原告ら各自に対する換地処分の無効確認を求めているから、同第1項においては、結局原告ら以外の者に対する換地処分の無効確認を求めているものと解さざるを得ない。そうだとすると、原告らは、それぞれ第三者に対する右換地処分の無効確認を求める法律上の利益を有しなければならないところ、原告らにはかかる利益は全く存しない。したがつて右の訴部分が不適法であることは明らかである。

2 換地処分の公告は、抗告訴訟の対象とはなり得ない。

(一) 法一〇四条では換地処分の公告により権利関係確定の効果が生ずるとされているが、換地処分は、関係各権利者に対して換地計画において定められた関係事項を通知することによつて換地処分としての効力が生ずるものであり(法一〇三条一項)、右公告は、単に換地処分をした旨を公告するにすぎないのである。

すなわち、右公告は、抽象的、一般的に換地処分のあつたことを公表するにすぎないのであつて、特定の権利者に対する具体的な処分では決してないのである。それにもかかわらず、右公告により権利関係確定の効果が生ずるとしたのは、実は、換地処分の効果を一斉に発生させるための便法であり、それは法が特に付与した公告に伴う付随的な効果にしかすぎないものである。したがつてかかる抽象的、一般的な公告という行為は、抗告訴訟の対象とはなり得ない。

仮に、右公告に対しても抗告訴訟を認めると、換地処分に対して不服な者によつて一旦右公告が無効とされた場合、換地処分に対して不服でない第三者との関係においても、右公告の効果が生じないこととなるのであつて、このような訴訟が現行訴訟法上許されないことは明らかである。

三 請求原因に対する認容

1 請求原因1のうち、前段は認めるが、後段但し書以下は不知。

2 同2は認める。なお、被告が法八六条一項により本件換地計画を決定したのは、昭和四四年六月二日であり、この換地計画に基づき原告らを含む施行地区内の関係各権利者に対して関係事項を通知したのは、同年七月七日付である。

3 同3はすべて争う。

4 同4のうち、

(一) (一)については、平均減歩率が二割六分二厘であることは否認し、その余は争う。

(二) (二)については、未指定地が一一万坪余であることは否認し、その余は争う。

(三) (三)については、被告が本件事業の換地計画において、元地の地積は原則として土地台帳記載の地積によつて定めたこと及びその結果三万二二〇五坪の測量増地が生じたことは認めるが、その余は争う。

(四) (四)(一坪・二坪換地について)のうち、一坪・二坪換地を実施したこと、その取扱いは、一工区全体で六〇七筆あり、元地合計約六七二坪三合七勺が二万四〇一三坪二合三勺の換地になつていることは認めるが、その余は争う。

(五) (五)(増換地について)は争う。

(六) (六)(飛換地について)のうち、他工区から一工区内に飛換地した換地地積が約九三〇〇坪あつたことは認めるが、その余は争う。

(七) (七)(広島市有地に対する換地について)のうち、広島市が一万六八一八坪の増換地を取得していることは認めるが、その余は争う。

(八) (八)(保留地について)のうち、保留地が約一万五〇〇〇坪あつたことは認めるが、その余は争う。

(九) (九)(評価時点について)は争う。

(一〇) (一〇)(各筆の評価について)は争う。本件事業においては、路線価式評価法を用い、客観的且つ合理的に各筆の評価を行つた。

(一一) (一一)(国道、平和公園等のただ取りについて)のうち、別表(二)記載の面積の点は認めるが、その余は争う。

(一二) (一二)(換地各筆の照応について)は争う。

(一三) (一三)(舟入川口町、西川口町及び舟入幸町の一部について)のうち、広島市舟入川口町、西川口町、舟入幸町の一部について、昭和九年組合が区画整理事業を施行して完成させたことは認めるが、その余は争う。

四 被告の主張

1 本件土地区画整理事業(一工区)の経緯について

(一) 事業の着手

(1) 第二次世界大戦における戦災により焼失または破壊された全国各都市の復興は、国家再建の基礎であり、重要且つ緊急に実施すべきものであることに鑑み、政府においては昭和二〇年一一月五日、内閣総理大臣の直属の機関として戦災復興院が設置され、同年一二月三〇日には、「戦災地復興基本方針」が閣議決定され、昭和二一年九月一一日には、特別都市計画法(昭和二一年法律第一九号)が公告・施行された。

当時の法制では、都市計画及び都市計画事業は旧都市計画法(大正八年法律第三六号)により、土地区画整理は同法及び耕地整理法(明治四二年法律第三〇号)により行われることになつていたが、右特別都市計画法は、戦災を受けた市町村につき特例を定めたものである。

(2) 広島市は、周知のとおり、昭和二〇年八月六日世界最初の原子爆弾の投下により、市の中心部が半径約二キロメートルにわたつて焼失し、焼失面積約四〇〇万坪、被害戸数約六万九〇〇〇戸、死者、行方不明者合わせて二〇数万人という被害を受け、市街地は一瞬にして廃墟と化した。

そのため広島市には、戦災復興事業が実施されることとなり、昭和二一年一〇月九日内閣告示第三〇号をもつて、特別都市計画法一条三項の規定による戦災復興都市としての指定がなされた。これと並行して旧都市計画法三条の規定により特別都市計画が次のとおり決定された。

広島復興都市計画街路(昭和二一年一〇月四日戦災復興院告示第一九八号)

広島復興都市計画土地区画整理区域(同日同告示第一九九号)

広島復興都市計画公園(同年一一月一日同告示第二三七号)

また、これと同時に、旧都市計画法三条の規定による特別都市計画事業及び毎年度執行すべき特別都市計画事業(執行年度割)の決定がなされたが、広島市の被害は甚大であつたため、広島復興都市計画土地区画整理区域を二分し、西部を広島県知事が、東部を広島市長が各別に施行することとなり、それぞれ次のとおり決定された。

広島特別都市計画事業西部復興土地区画整理及びその執行年度割決定(昭和二一年一一月一日戦災復興院告示第二四一号)

広島特別都市計画事業東部復興土地区画整理及びその執行年度割決定(同日同告示第二四三号)

右特別都市計画の決定及び特別都市計画事業の決定に引続き、施行者である広島県知事においては、特別都市計画法施行令(昭和二一年勅令第四二二号)一〇条の規定により土地区画整理施行地区の告示(同年一一月一五日、広島県告示第三〇九号)を行うとともに、設計書及び施行規程の作成を急ぎ、それぞれ次のとおり告示した。

広島西部復興土地区画整理設計書の告示(昭和二二年六月一〇日広島県告示第二〇六号)

広島特別都市計画事業復興西部土地区画整理施行規定の告示(同年八月二九日広島県告示第二八七号)

(3) 本件土地区画整理事業については、右のような法定手続と前後して、その実施に必要な各種の準備が行われた。すなわち、昭和二一年二月には、本件事業を実施する機関として、広島県広島復興事務所が設けられた。また昭和二二年一月三〇日には、特別都市計画法一一条により土地区画整理委員会の委員の選挙が行われた。更に、昭和二一年度から戦災地応急対策事業として市街地に山積する瓦礫等の清掃を行う一方、施行地区内の現形測量、土地台帳の調査など土地区画整理事業の施行に必要な調査も行われた。これらは、現在では到底想像することもできないような終戦直後の社会情勢の混乱と、物資、人員の不足のもとにおいて行われたものである。

当時は、原爆の被害によつて、施行地区内の土地は瓦礫におおわれていて、現地で土地の境界を確認すべき由もなく、また、土地所有者は死亡又は離散していて所在不明者が多数にのぼつていた。一方、広島県の庁舎も原爆の被害を蒙つたため、職員の不足に加えて紙一枚にまで苦労する状態であつた。このような情勢のもとにおいては、一筆ごとに土地所有者の立会を求めて実測を行うことは不可能であつた。被告は、昭和二二年初め、施行地区の外郭線内を一括測量してその面積を算出した。次いで瓦礫を片付けて道路等の公共用地と宅地との境界を明らかにしたうえで、公共用地を測量した。一方、各筆の宅地面積は原則として土地台帳の面積によることとした。施行地区全体の実測面積から公共用地の実測面積を差し引いたものが宅地の実測面積となるが、これと台帳面積との差は、当時の施行地区内では、四万〇八一二坪七合一勺であつた。その後施行地区の縮小と工区の分割があつたので、換地処分時における一工区の施行地区内では、それは三万二二〇五坪八合三勺となつた。

(二) 仮換地の発表

(1) 土地区画整理事業においては、工事に先だつて仮換地(特別都市計画法では「換地予定地」と呼んでいたが、土地区画整理法九八条の仮換地と実質的に異なるところはないので、以下換地予定地を含めて「仮換地」と呼称することとする。)の指定が、各人ごとに通知して行われるのが通常である。本件事業においては、この仮換地の指定に必要な「換地準則」及び「過少宅地並過少借地の取扱準則」が、土地区画整理委員会に諮られたうえで、昭和二二年三月に定められた。

(2) 戦災復興土地区画整理事業は、戦災都市復興の礎をなすものであり、その早急な実施が望まれていた。一方、疎開していた人々や外地からの引揚者が続々と広島に帰り、焼跡にバラツクを建てはじめ、仮換地の発表を待ち望んでいたときでもあつた。右のような事情のもとで日夜作業を急ぎ、復興のテンポの速い市街地の中心部から逐次仮換地の発表を行つた。右仮換地の発表は、昭和二二年九月から昭和二四年三月までの間に、当時の施行地区のうち福島川廃川敷、己斐町及び庚午町の一部を除く全区域について行われた。そして法に基づく仮換地の指定ができ得る状態になつた区域から部分的に仮換地の指定を行つた。

(三) 計画の再検討

(1) 本件事業は、前述のような経過をたどつて実施に移され、鋭意進められたが、その後における社会事情の変化は戦災復興事業にも大きな影響を与えるところとなり、数回にわたり事業計画の変更を余儀なくされた。

すなわち、戦後におけるインフレの激化により物価の高騰は甚だしく、このため事業費は増大し、資材の調達は困難を極め、一方、仮換地の指定中途においてバラツク等の建築が急増し、仮換地指定、建物移転、街路工事等の作業も意の如く進まなかつた。加えて、相次ぐ台風による災害の復旧も余儀なくされ、戦災復興事業の財源が圧迫された。更に昭和二三年には、いわゆるドツジ構想による経済安定九原則が当時我が国を占領していた連合国軍(以下「連合国軍」という)総司令部から示され、インフレ防止のため均衡予算が強く要請されるところとなつた。

政府は、右経済安定九原則に即応して戦災地復興計画基本方針を再検討した結果、昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」を閣議決定し、同日付で「戦災復興都市計画再検討実施要領」が建設省都市局長から各都道府県知事あてに通達された。右再検討の基本方針は、要するに、街路、公園、緑地等の計画及び土地区画整理事業を施行すべき区域をできるだけ縮小し、もつて事業の促進に資することであつた。

(2) そこで広島市についても、右再検討に関する基本方針に沿うように既定計画が再検討され、前記「広島復興都市計画街路」(昭和二一年戦災復興院告示第一九八号)及び「広島復興都市計画公園」(同年同告示第二三七号)などの変更を含む「広島平和記念都市建設計画」が昭和二七年三月三一日に決定された(昭和二七年六月五日建設省告示第七六八号)。その内容は、公園の縮小を主とする公共施設縮小のための計画変更であつた。なお、前記名称の変更は、閣議決定と時を同じくして、広島市を平和記念都市として建設することを目的として、広島平和記念都市建設法(昭和二四年法律第二一九号)が制定、公布されたことに伴つて、右告示により広島復興都市計画は広島平和記念都市計画と名称が変わつたものである。

(3) 右の計画変更によつて公共施設の計画が大幅に縮小されたこと等に伴い、いわゆる未指定地が生じ、その面積は昭和二八年ごろにおいて六万〇三六〇坪であつた。

この未指定地の処理については種々検討が加えられ、過小宅地について不換地とする方針であつたものを変更して換地を交付すること及び従前の宅地面積が大であるもので特に地積を大幅に減じていたものを通常の換地計算による地積に変更すること等の措置を昭和二七年から講じた。また、いわゆる一坪・二坪換地については、昭和三一年一月に土地区画整理委員会の意見を聞いてその方針を決定し、未指定地売却基準を定め、昭和三二年度からこの措置を講じた。

(四) 土地区画整理法の制定

昭和二九年五月二〇日には土地区画整理法(同年法律第一一九号)が制定、公布され、昭和三〇年四月一日から施行されることとなり、特別都市計画法は廃止された。

右土地区画整理法の施行に伴い、本件事業は法三条四項の規定により施行される土地区画整理事業となつた(土地区画整理法施行法五条一項)。これに伴つて、昭和二二年八月二九日告示にかかる広島特別都市計画事業復興西部土地区画整理施行規程は廃止され、新たに土地区画整理法六九条の規定による「広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業施行規程」(昭和三一年広島県規則第九号)が制定された。

(五) 事業計画の変更

(1) 本件事業計画の内容は、昭和二二年六月一〇日決定された広島市西部復興土地区画整理設計書のとおりであつて、土地区画整理法施行後は、同法施行法五条二項の規定により土地区画整理法の規定によつてその事業計画が定められたものとみなされることとなつた。この事業計画の第一回変更は、昭和三四年七月九日に行われた。

その理由は、特別都市計画を変更する広島平和記念都市建設計画が昭和二七年三月三一日に定められたため、設計の内容がこの平和記念都市建設計画と適合しなくなつたこと、国庫補助金の打切り措置に伴い、工区を分けて事業を実施すべき必要が生じたことなどによる。

右事業計画変更の主たる内容は、己斐町及び庚午町の一部、福島川廃川敷などが施行地区から除外されたこと、工区を一工区と二工区に分けて事業を実施することとなつたこと、設計の内容を広島平和記念都市建設計画に適合するよう変更したこと、保留地予定地積一万〇八六九坪八合八勺を定めたことなどである。

(2) 右事業計画の変更により、施行地区が一工区と二工区に分離されたことに伴つて、いわゆる飛換地という現象が生ずることとなつた。すなわち、既に仮換地の指定がなされていたものが、中途において工区が分割されたため、二工区となつた区域内に存する従前地に対して一工区となつた区域内に仮換地が指定されていたものが、結果的に飛換地となつたものである。

(3) この事業計画は、昭和三五年四月一五日に第二回目の変更が行われた。この変更は、二工区を都市改造事業として実施するにあたり、既定計画を再検討した結果変更したものであつて、一工区については何らの変更がなかつた。

(4) 昭和四二年九月二九日に第三回目の事業計画の変更が行われた。この変更は、福島川廃川敷との境界線を一部変更したこと、区画街路の一部変更を行つたこと、保留地の予定地積を一万〇八六九坪八合八勺から一万五三八〇坪六勺に変更したことが主な内容である。

(六) 換地処分

(1) 以上のような経過をたどりながら本件土地区画整理事業が行われ、仮換地の指定、建築物その他の工作物の移転、街路・公園事業の実施、電柱・ガス管・軌道・上下水道の移設などの工事を実施してきた。しかして、昭和三〇年三月ごろには、これらの工事もおおむね完成し、ほとんどの土地所有者も仮換地を使用収益するという状態になつた。そこで被告は、昭和三一年ごろから換地計画策定に必要な宅地の評価作業に着手した。すなわち、同年五月から七月にかけて、評価員に依頼して、施行地区内から抽出した約一二〇か所の標準画地の評価を行つたのをはじめとして、昭和三四年から昭和三五年にわたりたびたび評価員会を開いて本件土地区画整理事業施行前及び施行後の路線価指数について審議し、それぞれの路線価指数を定めた。更に、昭和三九年から昭和四二年にかけて評価員会を開き、この路線価指数を再検討するとともに、路線価指数一点あたりの単価を決定し、施行前及び施行後の宅地各筆の評価額を算出した。

(2) 右宅地の評価に続いて換地計画の策定を行つたが、この法定手続に入ったのは昭和四三年からである。

すなわち、まず換地計画を作成し、昭和四三年三月九日に土地区画整理審議会に諮問したところ、同審議会は、同月一一日からこの審議に入り、爾来八か月にわたつて審議した結果、同年一一月一一日に答申した。そしてこの換地計画は、同年一二月三日から一六日までの二週間公衆の縦覧に供されたうえ、法八八条所定の手続を繰り返して、昭和四四年六月二日決定された。

(3) 換地処分は、昭和四四年七月七日関係各権利者に通知して行い、同年八月一九日広島県報に登載して換地処分をした旨の公告をした。

また、換地処分に伴う登記については広島法務局長に嘱託し、同年一一月二三日にはすべての登記が完了した。

2 本件土地区画整理事業には、原告ら主張のごとき瑕疵は存しない。また仮に何らかの瑕疵が存したとしても、それは被告の本件処分を無効ならしめるほどの重大且つ明白な瑕疵には当たらない。

(一) 減歩について

(1) 原告らは、本件事業の平均減歩率は二割六分二厘という土地区画整理事業史上例を見ない高率であり、正当な補償なくしてこのような高率な減歩をすることは違法であると主張する。

しかしながら、本件事業における平均減歩率は二割二分五厘であり、右減歩率は、他の地方公共団体の区画整理事業における平均減歩率が次のとおりであることに対比すると、それは特別に過大でないこと明らかである。

イ 徳島市  一工区     〇・二五六五

二工区     〇・三〇二九

ロ 下関市          〇・二七四

ハ 宇部市  一工区     〇・二六六

二工区     〇・二六三

三工区     〇・二三五

ニ 岩国市          〇・三四四

ホ 高松市  第一次処分地区 〇・二五

第二次処分地区 〇・二五

第三次処分地区 〇・二五

二工区     〇・二五

ヘ 大分市          〇・二四

ト 福岡市          〇・二五五九

チ 久留米市         〇・二三

リ 釧路市          〇・二四五

ヌ 本別市          〇・二四四

ル 函館市          〇・三二三三

ヲ 仙台市  一工区     〇・二四八六

二工区     〇・二六〇三

ワ 平塚市          〇・二七五

カ 東京都  五地区     〇・二六六

六地区     〇・二四五

七地区     〇・二四六

八地区     〇・二九八

一〇の一地区  〇・二九三

一一地区    〇・二五四

二五地区    〇・二九

ヨ 和歌山市         〇・二四七五

タ 呉市           〇・二二七七

したがつて、本件土地区画整理事業における減歩率が著るしく過大であることを前提とする原告らの主張は失当である。

(2) ところで、土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善をするとともに、土地の区画形質の変更をすることによつて、宅地の利用の増進と健全な市街地の造成を図ることを目的としている(法一条、二条)ものであつて、本件事業においても、道路、公園等の公共施設の新設又は変更のために相当の地積が当てられている。これは戦災によつて灰じんに帰した広島市を復興し、健全な市街地の造成と宅地の利用増進を図るためであるから、土地所有者らが、所有権に内在する社会的制約として、右事業による減歩を受忍しなければならないことは、憲法二九条二項の規定により明らかである。

(二) 未指定地について

(1) 未指定地の生じた経緯

本件事業は前述したとおり、昭和二一年二月に着工され、昭和二二年六月一〇日「広島市西部復興土地区画整理設計書」が告示されたのに伴い、同年九月から仮換地指定が始められ、昭和二四年三月までには殆んど全区域にわたつて仮換地指定が完了した。

ところが前述のように、昭和二七年三月計画が変更されたことにより、当初計画で公共施設用地として予定されていた土地のうち、六万〇三六〇坪が公共用地から除外されることとなつた。本件における未指定とはこれを指称するものであつて、それは前述の如く、連合国軍の指令という超法規的な事態によつて生じたものである。

(2) 未指定地の処分方法について

イ 未指定地六万〇三六〇坪の処分については、前述のとおりであるが、その内容は、うち約二万〇九六八坪につき、法九一条三項、四項の規定による過小宅地・過大宅地に対する方針を変更して(すなわち、従前は不換地とされていたものにつき換地を交付することとし、あるいは過大な宅地につき強減歩されていたものの減歩率を緩和して通常の換地として)、その地積にあて、また、うち約一万五三七九坪を保留地として売却し、その代金を事業費に充当し、残りの約二万四〇一三坪をいわゆる一坪・二坪換地の対象とした。

ロ ところが、原告らは、右未指定地は減歩された地主に対して、減歩地積に按分して返還すべきであると主張する。

ハ しかしながら、昭和二四年三月にはほぼ全域において仮換地の指定がなされ、当該仮換地上には既に住居が建築されていたのであるから、事業計画の変更がなされた昭和二七年三月の時点において、これらの建物をすべて除去し、仮換地の指定をやり直すことは到底不可能であつた。

ニ 一方、未指定地をすべて保留地として処分すれば、被告としては事業費の負担は軽減されるが、土地所有者らには何ら利益が還元されないこととなるのである。

そこで、被告は、右未指定地の処分方法について、昭和三一年一月三一日に土地区画整理審議会に諮り、その意見を聞いたうえ、同年一〇月三〇日「未指定地売却基準」を作成し、これに従つて六〇七筆を処分し、元地である県有地の売却代金一億九〇〇〇万円は清算金に繰り入れ、清算金の交付という形で、金銭により減歩地主らに還元することとなつた(元地売却については、右基準に従い、原則として一般競争入札によることとし、落札にあたつては、一筆ごとに審議会に諮つたうえで決定し、公正を期している。)。

(3) 一坪・二坪換地の適法性

イ 一坪・二坪換地とは、前記未指定地の一部である二万四〇一三坪を土地所有者に還元する方法としては、前述のとおり金銭によらざるを得ないとの観点から、広島県所有地六七二坪(六〇七筆)を元地とし、これに対する仮換地として右二万四〇一三坪を指定し、従前の土地(元地)一坪ないし二坪を処分することによつて、元地の買主が仮換地として指定された土地の使用収益権を取得することとしたものを指称するものであつて、法九一条一項を類推適用して行つたものである。

ロ もつとも、かかる換地について定める規定はないが、何人も予測し得なかつた事由によつて、公共用地の削減に伴う未指定地が生じたのであつて、これをどのように処置するかは、いわば緊急避難にたとえられるものであるから、同法の目的内容に照らして、施行者の合目的的な裁量によつて決定するほかに方法のないことは自明の理である。したがつて、それが裁量権の濫用に該当しないかぎり、違法ではないと解すべきである。

ハ また、この一坪・二坪換地によつて、土地所有者は損失を受けていない。

すなわち、計画の変更は昭和二七年三月であつたから、既に仮換地指定が終わつた後に、公共用地に計画されている土地が減少したのであつて、既に指定された仮換地を削減したものではない。しかも、既に原告らに指定された仮換地の評価額は、従前地のそれに比して決して低額にはなつておらず、その意味において未指定地を直接原告らに再配分しなかつたとしても、原告らには損失を生じていないのである。したがつて、計画変更及びその結果生じた未指定地の処分によつて、原告らは何ら権利を侵害されていない。

(三) 測量増地について

(1) 被告は、前述のとおり昭和二二年二月ころ、施行地区全体及び公共施設用地についてその現形測量を実施したが、当時は原爆被爆直後であつて、土地の境界は明らかでなく、多数の所有者が所在不明のため立会を求めることすら不可能な状態であつた。この測量を行つた結果、施行地区内において、公簿面積に比して三万二二〇五坪の面積増加であつた。しかし、これは一工区の全面積一四四万坪の約二パーセントにすぎず、被告は、この増加分を公共用地にあてた。

(2) 一方、被告は、昭和二二年一一月二〇日地主に対し、実測面積と公簿面積とに差があるものは、昭和二三年一月三一日までに申し出るべきこと、申出に理由があると認められるときは地積訂正の手続をとる旨公告した。そして右の申出があつたものについては、調査のうえ現実に地積訂正の手続がとられた。

(3) ところで、区画整理においては、すべての宅地について公簿面積によらず、実測面積によつて確定することが望ましいのであるが、前述のような事情の下では、実際上、広汎かつ多数の宅地について、短期間のうちに実測を行うことは困難であるところから、地積確定方法として、一定期日における土地台帳記載の面積によることとし、同時に、一定期間内に宅地所有者から実測面積による公簿面積の訂正を施行者に申請し得る方法を採り、しかも、前述のように、右測量増地を公共用地にあてているのであるから、これをもつて違法ということはできない。

(四) 飛換地について

(1) 昭和二二年六月一〇日、本件事業について当初の事業計画が告示されたときには、現在の一工区と二工区との区別はなく、両者が一つの施行地区として決定されていた。

ところが、昭和三四年度をもつて戦災復興都市計画事業に対する国庫負担金が打ち切られることになつたため、事業のほとんどが進捗していなかつた福島地区(二工区に相当する地区)を切り離して、その余の地区(一工区に相当する地区)の事業の完成に努力を集中することとなつた。そのため、昭和三四年七月九日に事業計画を変更して、一工区(一四二万坪)と二工区(一〇万坪)に分離した。けれども、仮換地の発表は昭和二二年から二四年にかけてなされていたところから、右工区の分離により、現在の二工区内の土地所有者に対する仮換地が一工区内に指定されているという現象が生じ、結果的に工区間飛換地ということになつた。

(2) なお、二工区については、昭和三四年度以後も都市改造事業として引き続き国庫補助のもとに施行されることになつたが、昭和三五年四月一日に既定の計画が変更された。このため二工区における仮換地については、昭和二四年三月三一日に発表したものを廃して、新たな計画に適合するよう昭和三七年一月一三日に仮換地の指定が行われた。しかし、一工区内に仮換地が指定されていたいわゆる工区間飛換地については、既に仮換地の使用収益がなされていたので、取り消すことなく、そのまま存続された。

(3) ところで、工区間飛換地については、法的にも問題はなく(法九五条二項)、また実際上の必要から現に行われているところであつて、かかる方法も、関係権利者に不利益を及ぼさない配慮がなされているかぎり、有効と解すべきである。

(五) 市有地に対する増換地について

広島市有地につき増換地が行われたのは、いわゆる普通財産に属する土地ではなく、公用又は公共用財産たる学校、消防出張所等の敷地についてである。そして、かかる宅地に対する増換地は、法九五条に特別の宅地に関する措置として規定されているところである。また本件の場合、被告は右増換地をするにつき土地区画整理審議会の同意を得て実施し、一般の評価額により合計一億五三〇〇万円の清算金を広島市から徴収している。

(六) 保留地の処分について

(1) 土地区画整理事業においては、保留地の処分によつて事業費を捻出することができ、法一一八条は、事業に要する費用は施行者が負担することを定め、法九六条は、事業施行の費用に充てるため保留地を定め得ることを規定している。これらの規定を受けて、施行規程六条において、保留地の処分についての規定が設けられているのである。

(2) 保留地の処分代金は、広島県において「広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業特別会計」を設けてこれに繰り入れ、そこから事業費を支出しているのである。これが右規程六条にいう「事業費は広島県が負担する。」の意味である。ちなみに保留地の処分代金のみにては事業費が不足したので、広島県は一般会計から右特別会計へ毎年繰り入れを行い、その合計額は六億八九三七万円に及んだのである。

(3) 保留地は、昭和三四年七月九日変更した事業計画においては約一万坪と定められていたが被告は昭和四二年九月二九日変更した事業計画においてこれを約一万五〇〇〇坪と定めた。これは法九六条二項の規定による事業施行後の宅地の価額の総額約八〇億円と事業施行前の宅地の価額の総額七二億円との差額約八億円の範囲内で定めたものである。

なお、被告が作成した清算金総括表の宅地の評定価額は、施行前の宅地の評定価額の総額と施行後の宅地(保留地を除く)の評定価額の総額が一致するよう作成したものである。したがつて、整理前後の宅地の価額総額の差は零となつているから、本件においては保留地を設定することは許されないという原告らの主張は失当である。

(4) 保留地の処分については、昭和三二年に、評価員の意見を聞いて定めたものに準拠して処分した。なお、保留地の売却代金は本件事業費総額の約二割にしかあたらなかつた。

(七) 国道、平和公園のただ取りが違法であるとの主張について

(1) 土地区画整理事業は「公共施設の整理改善及び宅地の利用の増進を図る」(法二条一項)ことを目的とするものであつて、事業計画においては、環境の整備改善、交通の安全、災害発生の防止その他「健全な市街地を造成するために必要な公共施設及び宅地に関する計画が適正に定められていなければならない。」(法六条二項)のである。換言すれば、土地区画整理事業とは、都市計画区域内における一定範囲の土地を区画整理施行地区とし、右地区内の土地はこれを一団とみなし、その中から必要な公共用地を控除した残地の区画形質を整然としたうえ、従前の土地に照応する土地に権利の移動をさせるものである。

(2) しかして、私有地も、関係土地所有者の利益のみならず、社会の福祉すなわち不特定多数人の利益に適合せしめることが必要である。このことは、憲法二九条二項及び民法一条一項の宣言するところであってこれらの法条にいう公共の福祉とは、国民全体の利益と解すべきことは言うまでもない。本件事業の事業計画は、公共の福祉の増進に資することを目的として都市計画法に定めるところにより決定された都市計画に合致させたものである。

(3) したがつて、右計画に基づいて、従前地の一部を国道、公園等の公共用地としたことに何らの違法はない。

(八) 清算評価時点ならびに評価方式について

(1) 清算金の制度は、本来関係権利者相互間の利害の不均衡を是正することを目的とするものであるところ、本件事業において、昭和三〇年三月ころにはおおむね仮換地上への建物の移転ないし街路工事等が完成し、ほとんどの土地所有者もまた同時点において、事実上権利関係が確定したものとして、生活ないし権利関係を生成発展させていたのであるから、右時期における時価相当額をもつて清算金算定のための評価額とするのが最も合理的というべきである。

(2) すなわち、本件事業は、前述のように、戦災によつて灰じんに帰した広島市を復興し、健全な市街地の造成と宅地の利用の増進を図るために、昭和二一年に着手し、昭和三〇年三月ころにはおおむね仮換地上への健物の移転ないし街路工事も完成し、昭和四四年に至つて本件換地処分がなされたものであるところ、いかなる価額をもつて右清算金算出のための評価額とするかは、多数の関係権利者の利害に影響するところも極めて大きく、困難な問題である。たとえば、本件換地処分において清算金を交付される者と、徴収される者とは相半ばするところ、交付される者は昭和四四年当時の時価を主張し、一方徴収される者は、昭和二一年当時、あるいは仮換地指定当時(昭和二二年から二四年まで)の時価を主張しているのである。

(3) 本来清算金の制度は、換地の不均衡から生ずる関係権利者相互間の利害の不均衡を是正することを目的とする制度であるが、昭和四四年当時の時価を右評価額とすることは、昭和三〇年以降からの土地価格の上昇指数が他の物価上昇指数と比べて異常に高く、区画整理事業の要因以外のものを含んでいると言わざるを得ないことなどからして不当であることは明らかであり、更に右区画整理事業の要因以外のものを除去して、昭和四四年当時の時価を算出することも事実上不可能である。仮に可能であつたとしても、その結果清算金を徴収される者は、これが支払いのために、場合によつては既に建物敷地となつている換地を処分しなければならなくなるという深刻な事態を生ずる恐れもあり、かくては土地区画整理事業の本来の趣旨とも相反することにもなるから、昭和四四年当時を基準として右価額を決定することは合理的でない。

(4) また、昭和三〇年三月ころには、本件事業においておおむね仮換地上への建物の移転ないし街路工事等が完成し、ほとんどの土地所有者もまた、同時点において事実上権利関係が確定したものとして、これが使用収益をなし、あるいはまた昭和四四年当時の時価を基準として清算金を徴収されることなど全く予想もせずに、これを処分しているのである。

これを要するに、関係権利者は昭和三〇年三月ごろに、本件事業における権利関係は事実上確定したものとして、これを基礎にして生活関係ないし権利関係を生成発展させているものということができる。

(5) ところで、清算金をいつの時点を基準として算定すべきかについて、法は何ら明文の規定をおいていない。したがつて評価時点をいつにするかは、処分権者の合理的な裁量に委ねられているのであるが、清算金制度が土地区画整理事業の施行による宅地の利用増進という事業効果を施行地区内の宅地等の権利者に不均衡が生じないように還元するものであるから、その基準時は、土地区画整理事業による工事概成時とするのが最も合理的である。すなわち、右事業の効果が表面化してきた時点において、既に換地相互間の不均衡が生じていると言えるからその不均衡を是正すべき清算金は、不均衡が現実化した時点において生ずべきものであり、そして、事業効果の表面化する時点とは、工事の概要が現実に明らかになつた時点である工事概成時とするのが合理的である。

(6) もつとも、法一〇四条七項は「清算金は、換地処分の公告日の翌日に確定する。」旨規定しているが、これは、必ずしも、清算金の算定基準日が換地処分時であることを意味しているものではない。ここに言う「確定」とは清算金の徴収・交付の権利義務がその時に具体化することであつて、右の確定時と算定基準時とを同一に解すべき論理的必然性は何ら存しない。前述したように、利用価値の不均衡は工事概成時において表面化するものであるから、その時に清算を行うべき状況が現出したと言えるが、この意味においては、この時点で清算金に関する抽象的な権利義務が発生し、それが換地処分の公告によつて具体化するとみることもできよう。このように理解することが、法一〇二条の仮清算の制度が設けられていることとも合致するのである。

(7) また、法は、換地計画において清算金額を明示することを要求している(法八七条三号)が、仮換地に先立つて換地計画が策定される場合も予定しており(法九八条一項本文後段)、他方、「換地処分は、土地区画整理事業の工事が全部終了した後でなければ、原則としてすることができない。」旨規定している(法一〇三条二項)のであるから、清算金が定まつてから換地処分に至るまでに相当の時間的間隔のあることを当然に予定している。このような場合、換地処分時を基準時として清算金を算定するということはそもそも不可能を強いることになるのであつて、それより相当前の時点を基準日として算定しなければならないことになる筈である。このようにみると、算定基準時を工事概成時としたことに十分な合理性があると言うべきである。

(8) なお、清算金算定の方式についても、被告は「路線価式評価法」を採用し、評価員の意見を聞いてその額を合理的に決定した。

「路線価式評価法」とは、一個の街廓に属する画地の画一性に基づいて、街路ごとにこれに接する標準地を選定して、その単位地積に対する価額(路線価)を定め、これを基礎として、これに個々の画地の特殊性に基づいて増減する価額を附加もしくは控除して算出する方法である。この評価法は関東大震災後になされた東京・横浜両市の震災復興後における土地の評価について採用されて以来、土地区画整理事業においては広く用いられており、戦災復興院(建設省の前身)も戦災復興事業について採用した。けだし、広範囲にわたり多数の土地等を評価する場合、客観的且つ合理的に、しかも能率的に評価できる点において、最も優れた理論的、科学的な方法であることによるものである。

(九) 換地各筆の照応性について

原告らは、本件処分の元地と換地とを比較すると、その位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等につき、いずれも換地の方が極端に劣つていると主張しているが、右主張には全く具体性がないのでその主張自体失当である。本件事業は、その区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的としたものであるが、右目的に沿つた成果を得るばかりでなく、換地前後の土地が照応するように客観的な基準たる換地準則を定め、すべての土地についてこれを適用してなしたものである。その結果として、広島市が近代的な都市として著しく発展していることは公知の事実である。

(一〇) 舟入川口町等について

原告ら主張の地区で、昭和九年区画整理がなされているが、当時の区画整理は、道路が狭く到底現在の社会情勢に対応できるものではなかつたので、原爆によつてこれらの地域の建物が破壊された機会に、広島市全体の近代的都市計画事業施行の必要上、これらの区域をも本件事業の施行地区に加えることが公平の見地からも妥当であつたのである。もし本件事業が行われなかつたならば、この地域については本件事業が施行された地域と齟齬を生じ、都市機能としては見劣りしていたことはいなめないところである。

したがつて、本地区は、旧特別都市計画法三条の規定により特別都市計画として決定された広島復興都市計画土地区画整理区域(昭和二一年一〇月四日戦災復興院告示第一九九号)に当初から編入されていたのである。

ちなみに、昭和九年施行のものと本件事業との街路幅員を比較してみると、補助街路については、前者は三・六メートルないし六メートルであつたものが、後者では六メートルないし一〇メートルに拡幅(ただし、一部においては、舟入地区住民の要望により四・五メートルとしたところもある。)されており、幹線街路については、前者の東西線が四メートルであつたものが、後者では二〇メートルに、前者の南北線が二二メートルであつたものが、後者では三〇メートルに拡幅されており、この地区においても公共施設の整備改善及び宅地の利用増進が図られているのである。

なお、当該地区にあつては、結果的に二度の区画整理が行われたことになるが、だからといつて他地区と比較して不利益な取扱いを受けた事実はないのであるから、原告らの主張は失当である。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

被告は、原告らの本件訴のうち、請求の趣旨第1項の部分は訴の利益を欠き、請求の趣旨第3項の部分は抗告訴訟の対象となり得ないものであるから、いずれも不適法であつて却下を免れないと主張しているので、先ず右の点について判断する。

一 請求の趣旨第1項の申立について

1 右申立は、本件換地処分の前提としてなされた換地計画及び右換地計画に基づいてなされた本件換地処分全体の無効確認を求めるものである。

2 しかし、原告らは請求の趣旨第2項において、いずれも原告ら各自に対してなされた各換地処分の無効確認をそれぞれ求めているのであるから、本件申立は、結局原告ら以外の第三者に対する本件換地処分の無効確認をも求めているものと解さざるを得ないところ、弁論の全趣旨によれば、原告らが本件換地処分に不服でない第三者に対してまで、右処分の無効確認を求める法律上の利益を有していないこと明白であるから、本件換地処分全体の無効確認を求める訴部分は不適法であると言わねばならない。

3 また、本件換地計画の無効確認を求める部分については、事業計画そのものとしては、特定個人に向けられた具体的な処分ではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たるにすぎない一般的・抽象的な単なる計画にとどまるものであるから、直接それに基づく具体的な権利変動を生じない事業計画の決定ないし公告の段階では、理論上からいつても、訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くのみならず、実際上からいつても、その段階で、訴の提起を認めることは妥当でなく、また必要もないと解するのが相当である。したがつて、原告らの右申立部分も不適法として却下を免れない。

二 請求の趣旨第3項の申立について

1 右申立は、法一〇三条四項によつてなされた本件換地処分の公告の無効確認を求めるものである。

2 しかし、右公告は、単に換地処分をした旨を抽象的・一般的に公表するにすぎないものであつて、特定の関係権利者に対する具体的な処分ではないから、かかる行為はいわゆる抗告訴訟の対象とはなり得ないと解するのが相当である。

若し、右公告に対して抗告訴訟を認めると、それが無効とされた場合、換地処分に対して不服でない第三者との関係においても、右公告の効果が生じないこととなり、かような訴訟が現行訴訟法上許されないことは明らかである。

3 したがつて、原告らの右申立部分も不適法として却下を免れない。

第二本案の主張について

一 争いのない事実

1 原告らは、別紙換地処分通知一覧表記載のとおり、同表記載の各土地につきそれぞれ所有権を有しているものであること。

2 被告が、昭和四四年六月二日法八六条一項により、本件土地区画整理事業(一工区)の換地計画を決定し、同年七月七日付(一部原告に対しては同年八月一九日付)で、右換地計画に基づき原告らを含む一工区内の関係権利者に対し別紙換地処分通知一覧表記載のとおりの換地処分または換地処分変更の通知をして、それぞれ換地処分をなし、同年八月一九日その旨の公告をしたこと。

3 被告が右換地処分をなすに際し

(一) 本件事業の換地計画において、元地(従前の土地)の地積は原則として土地台帳記載の地積によつて定めたこと。

(二) その結果三万二二〇五坪の測量増地が生じたこと。

(三) 被告が原告ら主張のような一坪・二坪換地を実施したこと、その取扱いは一工区全体で六〇七筆あり、元地合計約六七二坪三合七勺に対し二万四〇一三坪二合二勺が換地として指定されたこと。

(四) 他工区から一工区内に飛換地した換地地積が約九三〇〇坪あつたこと。

(五) 広島市が一万六八一八坪の増換地を取得していること。

(六) 保留地が約一万五〇〇〇坪あつたこと。

(七) 国道、平和公園等公共用地の面積が別表(二)の1、2、3各記載のとおりであること。

(八) 舟入川口町、西川口町、舟入幸町の一部については、昭和九年組合施行による区画整理事業が完成していたのに、本件事業においてもその施行区域内に加えられたこと。

以上の各事実はいずれも当事者間において争いがない。

二 争点の判断

原告らは、本件換地計画には数多くの重大且つ明白な瑕疵があるので、それ自体無効であり、したがつて右計画に基づきなされた本件換地処分は、原告らに関する部分ばかりでなく、全体として無効であると主張し、被告はこれを争い、原告らの主張に対しそれぞれ反論を加えているところ、本件においては、被告が本件事業の施行に着手し、本件換地処分をなすに至るまでの経緯が重要であるので、先ず右経緯を認定したうえ、原告らの主張する個々の無効事由(瑕疵の存在)につき逐一検討してみることとする。

1 本件事業の経緯について

いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六、第七号証の各一、二、第八ないし第一四号証、第一五号証の一、二、第一六ないし第二一号証、ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、事実摘示中「四被告の主張1本件土地区画整理事業(一工区)の経緯について」に記載されている各事実をすべて認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 そこで右認定の事実に基づき、本件事業に原告らの主張するような重大且つ明白な(すなわち本件処分を無効ならしめる程の)瑕疵が存するか否かについて考えてみる。

(一) 減歩について

前掲乙第一五号証の一、二ならびに弁論の全趣旨によれば、本件事業における最終的の平均減歩率は二割二分五厘であつて、原告らの主張するように二割六分二厘という高率ではなく、同じころ土地区画整理事業を施行した他の都市よりは、むしろその率が低かつたことが認められ、これに反する証拠はない。したがつて平均減歩率が過大に失するとの原告らの主張は採用できない。また土地区画整理事業の趣旨、目的(法一、二条)に照らせば、土地所有者らにおいて多少の減歩を受忍しなければならないことは、憲法二九条二項において所有権に内在する社会的制約を規定している以上、まことにやむを得ないところであつて、減歩そのものが憲法に規定する財産権保障の原則に違反するものではない。

よつて本件事業には減歩につき、何ら違法の点は在せず、この点に関する原告らの主張は失当である。

(二) 未指定地について

原告らは、被告が本件事業につき未指定地を生じさせたことが違法であると主張する。しかし前認定にかかる本件事業の経緯によると、

(1) 本件事業について被告は、昭和二一年二月にその実施機関となる広島県広島復興事務所を設置するなど準備作業に着手し、昭和二二年六月一〇日「広島西部復興土地区画整理設計書」が告示されたのに伴い、同年九月から仮換地指定が開始され、昭和二四年三月までの間に、当時の施行区域のうち、福島川廃川敷、己斐町及び庚午町の一部を除く全区域について仮換地の指定が完了した。

(2) しかし、その後の事情の変化(特にいわゆるドツジ構想による経済安定九原則が連合国軍総司令部から示され、インフレ防止のための均衝予算が強く要請されたこと。)により、昭和二四年六月二四日政府において、「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」が閣議決定され、同日付で「戦災復興都市計画再検討実施要領」が建設省都市局長名で各都道府県知事あてに通達された。

(3) 右通達の趣旨は、要するに、街路、公園、緑地等の計画と、土地区画整理事業を施行すべき区域をできるだけ縮小し、もつて事業を促進させることにあつた。

(4) そこで被告も右通達の趣旨に従い、本件事業計画の再検討をすることとなり、その結果、公園の縮小を主とする公共施設等の縮小を内容とする、従前の事業計画を変更した「広島平和記念都市建設計画」が昭和二七年三月三一日に決定された。

(5) 右計画変更によつて公共施設の計画が大幅に縮小されたこと等に伴い、未指定地(仮換地として未だ指定されていない土地)が生じ、昭和二八年ごろにおいてその面積は六万〇三六〇坪に達した。

のであるから、右事実の経過に照らすと、本件事業につき未指定地が生じたことはまことにやむを得ないところであつて、原告ら主張のように違法であるとは認められない。

(三) 測量増地について

原告らは、本件事業において、被告は元地(従前の土地)の地積を実測せず土地台帳上の地積によつて従前の土地各筆の地積を決め、これによつて換地処分を行つたため、約三万二二〇五坪の測量増地が生じたことにつき、このようなずさんな手続は、関係権利者の権利を侵害し違法であると主張する。

そこで右主張につき検討するに、

(1) 前認定の事実(本件事業の経緯)および乙第一〇号証、第一八号証、第一九号証によれば、

イ 被告が、昭和二二年二月ころ本件施行地区全体及び公共施設用地について測量した結果、施行地区全体の実測面積は、公簿面積より三万二二〇五坪多いことが判明したが、これは施行地区全面積約一四四万坪の二パーセント強にすぎなかつた。

ロ 一方被告は、昭和二二年一一月二〇日実測面積と公簿面積とに差のあるものは、昭和二三年一月三一日までに申し出ること、右申出に理由があると認められたときは地積訂正の手続をとる旨公告した。そして申出があつたものについては、調査のうえ実際に右訂正手続がとられた。

ことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2) ところで、法は、この地積の決定方法について、公簿面積によれとも、実測面積によれとも規定せず、施行規程等にまかせているところ、乙第八号証(広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業施行規程)によれば、その第一七条に「換地交付の標準となるべき従前の土地各筆の地積は、昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳面積による(第一項)。土地各筆の地積で知事が必要と認める場合は、前項の規定にかかわらず実測した地積を査定してこれを定めることができる(第二項)。」と定めており、これに基づき被告は、前認定のように関係権利者に対し、一定期間内に公簿面積の訂正申出ができる旨の公告をしている。

(3) しかして一般に基準地積を決定するのに、公簿面積によるより実測面積によつた方が合理的であることは言うまでもない。しかし土地区画整理事業が緊急を要し、且つ施行区域が広範囲である場合には、実際問題として、従前の土地を一筆ごとに実測することは、整理が広範な地域にわたつて行われるため莫大な費用と時間とを必要とするので、土地台帳面積と実測面積とがさほど開きのない市街地においては、費用倒れになるおそれがあり、また計画の実施を著しく遅滞せしめることも明らかであるから、特に希望する者に限り実測した地積により得る途を開いておれば、原則として土地台帳面積によるものとしても違法ではないと解するのが相当である。

(4) そうすると、本件事業において被告が従前の土地の地積は原則として土地台帳面積により決定した点に違法はなく、その結果、実測地積との差により、施行地区全面積の約二パーセント強にあたる三万二二〇五坪の測量増地が生じたこともまたやむを得ないところであると言わねばならない。

(四) 未指定地及び測量増地(以下右両者を総称して「未指定地等」という)の処理について

原告らは、右のように本来換地となるべき土地に余剰の生じた未指定地等については、これを減歩された地主に対し按分して返還すべきであるのに、被告はこれを違法に処分したと主張する。よつて審究するに

(1) 前認定の事実(本件事業の経緯)に、前掲乙第一一、第一六、第一七各号証、いずれも成立に争いのない乙第七号証の一、二、ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、

(イ) 未指定地等の処理については種々検討が加えられ、当初の計画では過小宅地について不換地とする方針であつたものを変更して換地を交付することとし、また従前の宅地の面積が大であるため、特に地積の減歩率が高かつたものを通常の換地計算による地積とすること等の措置を講ずることを、被告は昭和二七年に決定した。

(ロ) そして未指定地のうち、右計画変更による地積にあてられた分が約二万〇九六八坪であり、その余の約一万五三七九坪は被告において保留地として売却し、その代金を事業費に充当し、残る約二万四〇一三坪を原告ら主張のようないわゆる一坪・二坪換地の対象とした。すなわち元地(県有地)合計六七二坪を一坪ないし二坪に細分して六〇七筆とし、これらを処分することによつて、右元地の買主が前記二万四〇一三坪のうち被告より仮換地として指定された土地(その地積は元地の約三五倍にあたる。)の使用収益権をそれぞれ取得することとした。

(ハ) なお測量増地三万二二〇五坪については、これをすべて道路、公園等の公共用地に充てた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) ところで、測量増地については前認定のようにこれをすべて公共用地にあてたのであるから、元地所有者に対し、その地積に按分して増加分を返還しなかつたとしても、本件事業の目的に照らせば、右処分方法は違法と言えないこと明らかである。ちなみに、若し原告ら主張のように元地所有者に按分して返還しなければならないとすると、元地各筆につきそれぞれ実測して地積を決定しなければ、権利者相互間の公平は保たれず、前記のごとく経費の節減と迅速な処理を旨とする本件事業の趣旨に反するものと言わねばならない。

(3) 次に未指定地の処分方法について検討するに

(イ) 前認定のとおり、被告がその一部(約二万〇九六八坪)を法九一条三項、四項の規定による過小宅地・過大宅地についての方針を変更し、当初不換地とされていたものにつき換地を交付することとし、過大な宅地について強減歩とされていたものの減歩率を緩和して通常の換地とし、その地積にあてたことと、その余の一部(約一万五三七九坪)を保留地として、その売却代金を本件事業の経費に充当したことは、前認定にかかる本件事業の経緯に照らすと、いずれも法の趣旨に反するものではなく、相当な処分と言うべきである。

(ロ) これに反し、残る二万四〇一三坪につき、被告がこれをいわゆる一坪・二坪換地の対象として処理したことは、前認定のように元地の約三五倍の地積の宅地が換地として元地の買主に交付されたのであるから、そのことからすると右のような処理方法は、土地区画整理法八九条一項に規定する照応の原則に反し違法であると言わねばならない。

(ハ) しかしながら、前認定の事実(本件事業の経緯)によると、昭和二四年三月には、ほぼ全域において仮換地の指定が行われ、当該仮換地上には既に建物が建築されていたのであるから、前述のとおり都市計画がやむを得ない事情で変更された昭和二七年三月の時点において、それらの建物をすべて除去したうえで仮換地の指定をやり直すことは到底不可能であり、また、未指定地をすべて保留地として処分すれば、施工者である被告にとつては事業費の負担が軽減されることになるが、土地所有者である原告らには何ら利益が還元されないこととなる。

(ニ) そして前掲乙第七号証の一、二、第一六、第一七号証によれば、被告は右のような見地からその処分方法に苦慮し、昭和三一年一月三一日に土地区画整理審議会(以下単に「審議会」という)に諮り、その意見を聞いたうえで、同年一〇月三〇日「未指定地売却の決定通知を受けた者は、払下代金として従前の土地売却代金ならびに増換地に対する仮清算金を契約締結と同時に支払う。」ことを内容とする未指定地売却基準(乙第七号証の二)を作成し、これに従つて前記六〇七筆を処分し、元地である県有地の売却代金一億九〇〇〇万円は清算金に繰り入れ、清算金の交付という形で金銭により減歩された地主らに還元することとしたこと、また、元地売却については、右基準に従つて原則として一般競争入札によることとし、落札にあたつては、一筆ごとに再度審議会に諮つたうえで決定し、公正を期したこと、なお、被告が右のように一坪・二坪換地の処分をなすに先だち、広島県土木部に所属する本件事業の所管課長及び担当者は数度にわたり建設省区画整理課に出向き、未指定地の処分方法につき相談した結果、同省の係官から、「仮換地指定をもう一度やり直すことは事実上不可能であるから、全部保留地として事業費にあてるということなら別にしても、できるだけ地主に還元するためにはそのような方法(一坪・二坪換地のこと)をとるのもやむを得ないのではないか。」との示唆を得ていること、そして右一坪・二坪換地の根拠法令として法九一条一項の増換地の規定を類推適用したこと、そして右一坪・二坪換地は、形式的には仮換地の指定という形をとつたが、現実には換地そのものの売買であつて、その売却は昭和三一年から行われ、昭和三五年には完了し、代金も当時の時価で仮清算金として直ちに支払われていること、をそれぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(ホ) 以上(ハ)、(ニ)の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、被告が一坪・二坪換地の方法を採用したのは、本件事業に関係する土地権利者の利益を慮つてなしたものであつて、一種の緊急避難的処理とも言えるし、また上級監督官庁にも相談し、審議会にも諮つたうえなされたものであるから、それはいわゆる「照応の原則」(法八九条一項)に反し違法であることは免れないが、未だもつて重大な瑕疵であるとは認められないところである。

したがつて、本件一坪・二坪換地の違法を、原告らに対してなされた本件各換地処分の無効原因とすることはできない。

(五) 増換地について

原告らは、本件事業においては、土地区画整理委員になつている者、その他特別の者に対して元地が過小宅地でもないのに、地積が増加した換地を受けている者が約九〇〇人もいるが、このことは大部分の地主が減歩を受けているのに、一部の者のみが、事業の機会を利用して他の地主の土地をかすめとつたことになり、公平の原則上許されないものであると主張するが、法九一条、九二条にはそれぞれ増換地する場合の要件が定められており、弁論の全趣旨によれば被告の処分は右要件に従つてなされたものと解されるところ、原告らの右主張は、被告の処分が具体的にどの点に違反するとしているのか明らかでないし、また本件全証拠によつても、被告が右増換地の規定に反して、一部の者のため違法な増換地をしたと認めることはできないので、主張自体失当であり到底これを採用することができない。

(六) 飛換地について

原告らは、本件事業において別の工区から一工区内に飛換地されたものが約一万坪あるが、それは何ら合理的な理由もないのになされたもので違法な処分であると主張するが、前認定にかかる本件事業の経緯によれば、〈1〉当初の事業計画では一つの施行地区として決定されていたものが、昭和三四年七月九日に事業計画が変更されたことにより一工区(約一四二万坪)と二工区(約一〇万坪)に分離されたこと。〈2〉しかし仮換地の指定は、既に昭和二二年から昭和二四年にかけてなされていたところから、右工区の分離により、現在の二工区内の土地所有者に対する仮換地が一工区内に指定されている現象が生じ、結果的に工区間飛換地ということになつたこと、をそれぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はないので、右飛換地の生じたことはまことにやむを得ないところであつて、これをもつて違法と断ずることはできない。原告らのこの点に関する主張は理由がない。

(七) 広島市有地に対する換地について

原告らは、本件事業では広島市に対し、普通財産たる市有地につき一万七〇〇〇坪の増換地がなされているが、これは本件区画の整理のどさくさにまぎれて行われたもので、火事場泥棒的な処分であり許されないと主張する。しかし、右増換地が行われた土地が広島市の普通財産であることを認めるに足る証拠はなく、前掲乙第二〇号証ならびに弁論の全趣旨によれば、増換地が行われたのは広島市の公用または公共用財産たる学校、消防出張所等の敷地についてだけであつて、かかる宅地の増換地は、法九五条により特別の宅地に関する措置として規定されていること、及び本件の場合では、審議会の同意を得たうえ、被告において一般の評価額により合計一億五三〇〇万円の清算金を広島市から徴収していること、を認めることができるので、原告らの右主張も理由がない。

(八) 保留地について

原告らは、被告が保留地を捻出設定したこと、及びこれを処分したことが違法であると主張する。

しかし、法及び施行規程(乙第八号証)によれば、土地区画整理事業においては、保留地を設定し、それを処分することによつて事業費を捻出することは許されており(法一一八条、九六条、同規程六条、二四条ないし二七条)、また前掲乙第一六、第一七号証ならびに弁論の全趣旨によると、被告が作成した清算金総括表における宅地の評定価額は、施行前の宅地の評定価額の総額と施行後の保留地を除く宅地の評定価額の総額とが一致するように作成したものであること、保留地の処分は、昭和三二年に、評価員(被告において選任した公平な立場にある土地評価の専門家)の意見を聞いて定めたものに準拠して処分し、売却代金は、広島県において設けられた「広島平和記念都市建設事業西部復興土地区画整理事業特別会計」に歳入として計上し、その他の収入と合わせて本件事業費に充当したこと、また保留地の売却代金は本件事業費総額の約二割にしかあたらなかつたこと、がそれぞれ認められるので、被告が保留地約一万五〇〇〇坪を設定し、その売却代金を本件事業費に充当したことに何らの違法はない。したがつて、この点についての原告らの主張も失当である。

(九) 国道・平和公園等のただ取りについて

原告らは、本件工区内に存する国道二号線敷地、平和公園、一〇〇メートル道路等の各公共施設の用に供せられた土地については、本来国、県、市の各管理者において、各取得した土地につき正当なる対価を支弁すべきであるのに、本件事業のどさくさにまぎれてこれらの土地をただ取りしたのは違法であると主張する。

しかし、土地区画整理事業は、「公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図る」(法二条一項)ことを目的とするものであつて、その事業計画においては、環境の整備改善、交通の安全、災害発生の防止、その他健全な市街地造成に必要な公共施設及び宅地に関する計画が適正に定められていなければならないのである(法六条二項)から、一定範囲の土地区画整理施行地区の中から、必要な公共施設用地が控除されることは当初から予定されていることである。しかして、附近に道路、公園等の公共施設が整備されることにより、私有地の価値も増進するのであるから、各私有地の一部が公共用地のため提供され、国または公共団体においてこれを無償で取得したとしても、それが違法でないことは、憲法二九条二項及び民法一条一項の規定に照らし明らかである。

よつて、原告らの右主張も失当である。

(一〇) 各筆の評価(清算)時点ならびに評価方法について

原告らは、被告が本件事業清算のための評価時点を昭和三〇年三月としたことはごまかしであり、またその評価の方法もでたらめであつて何らの根拠もなく違法であると主張する。

しかし、清算金をいつの時点を基準として算定すべきかについて法には何ら明文の規定がないから、右評価時点をいつにするかは、専ら処分権者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきところ、当裁判所も、被告が四(被告の主張)2、(八)(清算評価時点ならびに評価方式について)において述べているところと全く同じ理由により、被告において右清算評価時点を本件工事の概成時である昭和三〇年三月と定めたこと、およびその評価方法として路線価式評価法を採用したことは合理的であつて何ら違法はないものと認めるので、原告らの右主張はいずれも理由がない。

(一一) 換地各筆の照応について

原告らは、本件処分の元地と換地とを比較すると、その位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等につき、いずれも換地の方が極端に劣つているので、照応の原則に反し違法であると主張している。

しかし右主張には全く具体性がないので主張自体失当である。

(一二) 舟入川口町、西川口町及び舟入幸町の一部について

原告らは、右地区については昭和九年に土地区画整理組合による土地区画整理事業が行われたのに、再び本件土地区画整理事業が行われたことは違法であると主張している。

(1) しかし、前認定の各事実にいずれも成立に争いのない乙第一五号証の一、二、第一九号証ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、昭和九年当時の区画整理は、道路も狭く到底現在の社会情勢に対応し得るものではなかつたこと、また右区域内には公園等の公共施設が少なかつたこと、この地区も原爆によつて他の地区と同様に建物がすべて破壊されていたこと、この地区を本件事業の施行地区に含める計画が公表されたとき、当該地区住民から強い反対が見られなかつたこと、をそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はないところ、右事実からすると、広島市全体の近代的都市計画事業の必要上、これらの区域をも本件土地区画整理事業の施行地区に加えることが公平の見地からしても妥当であり、もし施行地区から除外すれば、この地域については本件事業が施行された地域と齟齬を生じ、都市機能として見劣りしていたことは否定できないところである。

(2) また前項で掲げた各証拠によれば、昭和九年施行の区画整理と本件事業との街路幅員を比較してみると、補助街路については、前者が三・六メートルないし六メートルであつたものが、後者では六メートルないし一〇メートルに拡幅されており、幹線街路については、前者の東西線は四メートルであつたものが、後者では二〇メートルに、前者の南北線は二二メートルであつたものが、後者では三〇メートルに拡幅されておることが認められるので、この地区においても公共施設の整備改善及び宅地の利用増進が図られていることは明らかである。

したがつて、右地区においては結果的に二度の区画整理が行われたことになるが、そのため他地区と比較して特に不利益な取り扱いを受けた事実は認められないので、そのことをもつて違法、無効と言うことはできない。この点に関する原告らの主張も失当である。

3 以上の説示を総合すれば、本件換地処分には、前記「一坪・二坪換地」の点を除き、原告らの主張するような違法事由は存在せず、右「一坪・二坪換地」の点についても、それも違法ではあるけれども、当時の事情からすると、いわば緊急避難に類した行為であり、その結果前述のように原告らを含む関係権利者に対してむしろ利益となつているのであつて、仮に不利益となつた面があつたとしてもそれは社会通念上受忍できない程の著しい不利益とまでは言い得ないのであるから、その瑕疵の程度はこれを無効としなければならない程重大なものとは認められないところである。結局原告らの主張はすべて理由がなく、本件換地処分は、全体としては勿論のこと、原告らに対する各処分もすべて有効と言わなければならない。

第三結論

よつて、原告らの本訴請求中、請求の趣旨第1項及び第3項の部分は、いずれも不適法としてこれを却下し、その余の請求部分(請求の趣旨第2項の部分)は、いずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

当事者目録、換地処分通知書、換地処分(変更をふくむ)通知一覧表、別表(一)、別表(二)の1~3〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例